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人間国宝が構想を提唱、山あいに工芸のアートコロニー 鳥取で拡大中

 新作民芸「牛ノ戸焼」で知られる鳥取市の山あいで「工芸の郷(さと)」づくりが進んでいる。白磁の人間国宝や新進の陶芸家、木工、ガラス工芸作家らが工房を構え、豊かな自然の中で互いに刺激し合い創作を続ける。新型コロナウイルス感染拡大前の令和元年に開催した「工芸祭り」には人口約1100人の地区に県外からも含めて2300人もの工芸ファンが詰めかけた。今年11月には拠点となるギャラリー&カフェが開業予定で、全国の中山間地が高齢化や過疎により衰退する中、「個性」を前面に出し活気づいている。

 人間国宝が構想を提唱

 「これまでの5年で地区内の工房は10に増えた。これからの5年でさらに5人程度の受け入れを目指したい。工芸で地域に貢献し、全国でほかに例がないような地域になっていければ」

 こう語るのは、平成25年に白磁の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された前田昭博さん(67)。多くの作家が集い、ものづくりを行う「工芸の郷」構想が進んでいるのは、前田さんが生まれ育った同市河原町西郷地区だ。

 ここは、平成の大合併で鳥取市となった河原町の南西部に位置する面積約4500ヘクタールの農村地帯。構想を推進する住民団体「西郷工芸の郷あまんじゃく」は、ホームページで「中国山地の山ひだにちょっと入ったところにある、小さな集落」と記し、全国どこにでもある中山間地と断ったうえで「少し違っているのは、工芸作家さんが多く工房を構えているところ」と紹介している。

 工房第1号は、約200年前の江戸時代後期に島根県の陶工が土を求めて移り住み開いた牛ノ戸焼。昭和20年に因州・中井窯、52年にはこの地区出身の前田さんがやなせ窯を開いた。

 牛ノ戸焼、中井窯は、「民芸のプロデューサー」として知られる吉田璋也に注目され、知名度がアップ。前田さんが人間国宝に認定され、西郷地区の名はさらに鳴り響くことになった。

 工芸の郷構想は前田さんが以前から温め、ひそかに提唱していたもので、人間国宝認定をきっかけに県や市が支持を表明。「あまんじゃく」が平成28年に発足し、同年に第1回工芸祭りを開催。翌29年4月に「工芸の郷」開きを行った。

 住民と作家が二人三脚

 「生活のための仕事をせずに、作品に集中できる状況があった」

 工芸の郷で活動する作家9人がパネリストになって10月上旬に開かれたミニフォーラム。4年前、郷開きと軌を一にして窯を開いた花(か)輪(りん)窯の花井健太さんや、昨年夏に三々窯を開いた小渕祥子さんは、フォーラムの参加者約40人を前にこう語った。

 県と市は2年間、西郷地区に移住してきた工芸家たちに月10万円の研修費を支給するとともに、制作活動のための環境整備費用を補助して構想を支援する。

 西郷地区に外からやってきて工房を構えたのは、平成19年の木工作家、藤本かおりさんが最初だった。その2年後にはガラス工芸作家の矢野志郎さんと竹中悠記さんが地区内に移住。郷開き以降は、3つの窯とレザーの工房、さらに西郷から少し離れた河原町の別の地区を拠点とする銀・七宝の工芸家が工芸の郷の作家として仲間入りし、現在は5分野10工房で「芸術家村」を構成している。

 工房受け入れにあたっては、「あまんじゃく」が地区内の空き家をあっせんしたり、格安で補修を請け負ったりする。地区最大のイベント「西郷工芸祭り」はあまんじゃくの主催で、文化人を招いたフォーラムやシンポジウム、子供たちが参加するワークショップも開催している。2日間で約2300人が来訪した一昨年の祭りでは、住民延べ100人以上が会場設営や駐車場整理などの裏方として運営を支えた。

 「工芸作家だけでなく批評家、知識人、ファンなどが集まる文化のるつぼを作るのが夢。工芸という核を基に、元気なむらづくりができれば」

 あまんじゃく代表理事の北村恭一さんは、工芸の郷のねらいについてこう記している。これに対し、作家たちは「自然が豊かで人がやさしい。この地域、場所ゆえの工芸の郷構想」と呼応する。住民側と作家側の二人三脚で工芸の郷づくりは進んでいる。

 ギャラリー&カフェ11月開設

 工芸の郷の今後の展開の柱として、あまんじゃくや工芸作家たちが取り組んでいるのがギャラリー&カフェの開設だ。地区内の空き家を改築し11月にオープンさせる予定で、リフォームや備品購入に必要な資金360万円の半分をクラウドファンディングで集めようと募集を始めたところ、1週間で目標額を上回る額が集まった。

 作家たちは「クラウドファンディングの反応はみなさんの期待と感じている」「工房を訪ねていただいても対応できないときもある。ギャラリーができれば、直接、作品を手にとってもらえる」と話す。

 「自宅に窯を築いて45年。工芸の郷構想に参加しなかったら外と交わることはなかった。人が集まる場所に文化が根付いていく。工芸の郷のような活動が文化をつくり、鳥取を、日本を変えていく。応援してくれる人とともに西郷工芸の郷物語が紡げたら」。前田さんは、そう夢を描いた。(松田則章)

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