2013.1.19 18:05
会社に不満や疑問があっても、なかなか社長に“直言”できないのが世のサラリーマンの常。その一方で「社員が会社をどう思っているのか、ホンネを知りたい」と思う経営者も少なくない。言いたいけど言えない、聞きたいけど聞けない…こんな双方のモヤモヤを「社長アンケート」で取り払っている会社がある。全社員を対象に実施するこのアンケート。社員が気兼ねなくホンネを出せるよう、ある工夫が…。
最初に「ざっくばらんにお尋ねします」
この会社はオフィスビルの屋上緑化などを手がける東邦レオ。約200人の全社員を対象にしたアンケートを通し、そのホンネを聞き出すとともに、職場環境の改善や新事業の開発に生かしている。
社員を対象にしたアンケートなど、目的や形は違えど、多くの会社で実施しており、何ら珍しくはない。この種のアンケートは、例えば半年や1年間の働きぶりを自ら評価するとともに、次の目標や課題を書かせるものが大半だ。
同社のアンケートはまず、橘俊夫社長の「ざっくばらんにお尋ねします」から始まる。そして、最初の質問は「会社に満足していますか?」。
次に「あなたがもっと幸せな人生を送るために、現在、もっとも必要と感じられることは何ですか」とくる。いきなり“意表”をつく項目が並ぶ。
最後は「私との面談を希望しますか?」
その後は、経営方針や経営陣の働き、自身の仕事の内容、直属上司のマネジメントなど、日常業務に関する質問が続く。「上司はいろいろな悩みを親身になって聞いてくれますか」といった質問もある。
アンケートはまず、個々の社員が会社の現状をどう見ているかをつかむのがねらいだ。
そして、今後やりたい仕事や、それをするために社内に欠けているものなどを記入する。アンケートを単に不満や疑問を出させるものではなく、具体的にどうしたいのか、会社はどうすべきか提案を促すものにしている。
これが社員にとって、アンケートが受け身的で、ともすれば負担に感じるものから建設的なものに姿を変えることになる。会社にとっては、アンケートを通して社員に経営センスを植えつける性格も帯びている。
「やる気のある社員の視点を生かさない手はない。不満や疑問を尋ねるのは、社員の問題発見能力を知るためでもあります」と橘社長は話す。
最後の質問項目は「私(橘社長)との面談を希望しますか?」。「希望する」と答えた社員は、パートや契約社員であっても個別面談を受け、橘社長に直接希望を伝えることができる。現在、3~4割の社員が面談を受けているという。
アンケートを生かすも殺すもトップの腕次第
橘社長は平成10年に年1回の頻度でアンケートを開始した。始めた当初は、不満の域を出ない社員の声に腹がたつこともあったそうだが、続けるうちに有能で意欲的な社員を発掘することにつながった。
その結果、入社数年の若手社員の提案をもとに新事業を興し、子会社の社長に抜擢(ばってき)して事業を伸ばしたり、営業サポートを担当していた社員に社内教育制度を改革させたりするなど、事業面での具体的な効果も出てきた。
それでも、橘社長は「アンケートを実施するだけではうまくいかない」という。実際、同社の活動を知り、「ぜひうちでも実施したい」という要請を受けて、これまで10社以上に“伝授”したが、成果を出している企業はほとんどない。
制度を導入しただけでは効果はない。採用した社員がホンネをいえる人間か。そして、そのホンネをきちんと受け止め、生かす用意が経営トップにあるのか。成功のカギを握るのは、採用から戦力化までの“人材戦略”。アンケートを生かすも殺すも経営トップの腕次第である。(田村慶子)
◇会社データ◇
本社=大阪市中央区上町1-1-28
創業=昭和40年1月
事業内容=建設関連工事、緑化事業
▽売上高=65億円(平成24年3月期)
▽従業員=215人(同年11月末現在)