【江藤詩文の世界鉄道旅】インディアン・パシフィック鉄道(2)進化するオーストラリア料理…厨房を仕切る23歳の女性料理長

2014.8.23 18:00

 「もしかして、シェフが変わりましたか?」

 『インディアン・パシフィック鉄道』に乗車して2日目の夜。列車が『アデレード・パークランズ・ターミナル』に停車して、長旅の準備を整えるための時間を利用した『オフトレインツアー』でアデレード市内の散策を楽しみ、オーストラリア産スパークリングワインを飲みながらひと息入れて、ディナーのテーブルについた。

 前菜の『シャーク湾でとれたカニ肉とアボカドのサラダ仕立て』を、フォークでそっとくずして口に運ぶ。あれ……? 昨夜味わった『ハーベイ湾のホタテの手打ちラビオリ包み』と、なんだか印象が違うのだ。

 聞けば、『インディアン・パシフィック鉄道』や『ザ・ガン鉄道』を運営するグレート・サザンレイル社はアデレードを拠点にしていて、アデレードで乗客が市内観光をしているあいだに、すべての乗務員が交代したという。

 1日目の厨房を取り仕切っていたのは、23歳の女性料理長。2か月前に昇進したばかりだそうで、溌剌としている。「キッチンを見せていただけますか」。ダメもとでお願いすると、こう言った。ちなみにザ・ガン鉄道では、安全上の理由からキッチンカーの内部を見ることはできなかった。

 「調理前は生の魚介など取り扱いに配慮すべき食材がたくさんあり、衛生上の理由から、外部のかたをお入れできません。また、調理中は火を使っていて危険ですので、食事を提供し終えた夕食後にいらっしゃいませんか」

 なんて融通がきくのだろう……。料理長によると、国が新しいオーストラリアでは“オーストラリア料理”という伝統的な定義がないため、料理人はオーストラリア産の材料を使って、自由にレシピを創作して、メニューを決定する会議に提案できるそうだ。年功序列の世界ではないため、若い女性がいきなり料理長に抜擢されたりもする。

 彼女が言うには、車内で提供する料理はすべてレシピが決まっていて、誰が調理しても味にばらつきが出ないようにイメージを統一しているとか。とはいえ、料理にはやはりつくり手の個性がにじむもの。2日目以降のベテラン料理人が作り上げる料理もなかなかだったが、若手料理長が描く輪郭のはっきりした料理は、新鮮な味わいだった。

■取材協力:オーストラリア政府観光局

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。

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