“巧いウソ”で出世つかむチャンス 「上司が仕事ぶりを見ている」は幻想だ

2015.10.31 17:11

 一番仕事をし、会社に貢献しているのは誰なのか? どれだけ精緻な評価の仕組みをつくっても、その本当の答えはなかなかわからない。しかしだからこそ、アピールという名の“ウソ”で出世をつかむチャンスが生まれるのだ。

 私は人事のプロフェッショナルとして、さまざまな企業の出世ルールづくりをしたり、実際に出世させるかどうかを決める現場に立ち会ったりしてきた。そこからわかるのは、出世には2つの条件が揃うことが欠かせないということだ。1つは「必要条件」、もう1つは「十分条件」である。

 必要条件とは、経験年数や査定の評価など必ず満たすべき事柄だ。どの企業でも「課長になるには係長を最低3年経験」といった明確な基準が設けられている。

 一方、十分条件とは、ひと言でいうなら「そのポストにふさわしい人物である」という、極めて漠然としたものだ。曖昧なのは、十分条件が状況により変化するからだ。事業が拡大しているときと、リストラ時では求められる人物像が違う。あるいは単に、組織でポストの空きが多ければ条件はゆるくなるが、少なければ厳しくなる。

 十分条件はこのようにわかりにくいが、自分である程度コントロールできるという面もある。まずは、上司から評価されることだ。「出世させたい」と上司に思わせて、推薦をしてもらわないことには、何も始まらない。

 このとき、「売り上げを伸ばして業績に貢献した」というような明確な成果があれば評価されやすいが、実務では数字に表れない仕事も多い。そこで「自己アピール」が必要になる。

 誰も見ていなければ、何もしていないのと同じこと

 「アピールしなくても、上司が仕事ぶりを見てくれているはず」と思う人も多いだろうが、それは“幻想”に過ぎない。「ゴミ拾い」を例にするなら、誰もいないところで一生懸命ゴミを拾っても、評価されることはない。評価されたいなら、やはり人が見ている場ですること。それも、誰よりも熱心に拾って印象付けることが大切だ。

 人目がないときは知らんぷりでいいわけではないが、なかなか評価はされないというのが現実だ。会議なら、上司がいるときこそ積極的に発言をして、イニシアチブを取る。それ以外は手抜きをしても、評価には影響しないかもしれない。

 できれば、常に積極的であるに越したことはない。しかし、出世のためには、人事権を持つ人に仕事ぶりを印象付けることが、最も大事であり、実際それを意識した人が出世しているという現実を忘れてはいけない。

 このような上司に媚びるような行動を後ろめたく感じる人も多いだろう。では、スポーツ選手を想像してみたらどうだろう。野球でもサッカーでも、観衆の前で試合をするから面白く、その場で活躍した選手が評価される。フィギュアスケートもそうだ。練習でトリプルアクセルが何回跳べても、本番で跳べなければ意味がない。

 会社では、上司の前が“試合会場”だ。そこで頑張っている姿を見せようとすることが、果たして悪いことなのだろうか。むしろ、非難されるべきは、普段も頑張らず、上司の前ですら頑張らないような人ではないだろうか。

 そうやって自己アピールするのと同時に、上司に好かれることも肝心だ。そのために心がけたいのは、上司の仕事のやり方を理解して、実践できる部下であるということだ。気を付けたいのは、上司が代わった場合。それまでの自分のやり方とまるで違ったとしても、新しい上司に合わせるのがいい。

 加えて、上司の仕事ぶりを褒めるのも、好感を持ってもらうための手段になる。役職が上がるほど、仕事を他人から褒められる機会は少なくなるので、部下からでも、褒められると嬉しいものだ。ただし、思ってもいないことを口にするとウソだとバレやすい。ポイントは、少しでもいいと思ったことは、大袈裟に褒めること。1のことを100に膨らませるのだ。「さっきの会議での部長の発言に感動しました!」というように、具体的に言うと上司の心に響きやすい。

 仕事を離れた場所でもチャンスは利用したい。通勤電車に上司と乗り合わせたら、お年寄りに席を譲る様子を見せたり、ゴルフで上司が見失ったボールを懸命に探したりということだ。もちろん、上司がいなくても同じことができれば言うことはないのだが。

 さらに言えば、多くの会社において、昇進人事は話し合いのもと、多数決で決められるものなので、他部署の上司へもアピールしておく必要がある。自分が推薦されたときに、他部署から「彼は頑張っていますよ」という後押しがあれば、昇格の可能性は一気に高くなる。

 逆に、ネガティブな意見が出た場合はもちろん、「彼は隣の部署だけど、あまり印象に残っていないな」という誰かの一言で、昇進が消えるケースもある。

 アピールとウソの境界線はどこにあるか

 以上のように「頑張っていること」や「人柄」をアピールするのなら、その方向性を間違えることはないだろう。しかし、会社の方針に関わるアピールは、ずれていては意味がないので注意が必要だ。

 たとえば、不正会計が露見した東芝。発覚前なら「チャレンジ」する社員が出世しただろう。しかし、現状でそういう社員の出世は難しいはずだ。重用されるのは、コンプライアンスを守り、社会に貢献できるような人材だろう。

 そこまで急でなくても、どんな会社も、社の方針は毎年少しずつ変化している。それを察知して、自分の仕事のやり方を変えていくことが重要になる。

 では、会社の方針はどのようにつかめばいいのか。会社の方針とは社長など上層部の方針ということになるが、直接本音を聞く機会は少なく、自分の会社でも変化に気づきにくいものだ。そんな場合は、直属の上司の伝聞形の言葉、たとえば「○○部門を強化する方針ということだ」というような、上司のオリジナルの考えではない、言葉に注目したい。会社の方針変化に気づくヒントになる。

 ただ悩ましいのは、直属の上司が会社の方針についていけず、ズレが生じている場合だろう。たとえば会社が「これからの営業は組織力だ」と言っているのに、上司は従来通りに「顧客との1対1のコミュニケーションが大事」と考えていたらどうすべきか。

 そんなときは、サラリーマンが上司を選べない以上、相手によって自分の発言を変えることもやむをえない。ただし「二枚舌だ」と言われないよう、部分的な同意にとどめておくほうがいい。両者は業績を伸ばすという目的は同じで、経路が異なるだけだと割り切るしかない。

 もっとも、ウソの中には、NGなウソもある。たとえば、英語は片言しか話せないのに流暢だと偽ったら、外資系企業担当になればバレてしまう。女性のマネジメントには自信があるというので任せたら退職者続出、というケースもある。「前の職場で株式公開の経験がある」とウソをついて入社したが、実際には帳簿すらつけられず、上場どころか数十億円の損失を生じさせたツワモノもいる。会社に損害を与えるようなウソをつくと、出世できないどころかクビになることも覚えておきたい。

 セレブレイン代表 高城幸司(たかぎ・こうじ)

 1964年生まれ。同志社大学卒業後、リクルート入社。同社で6年間連続トップセールスに輝く。その後「アントレ」初代編集長、事業部長を歴任。2005年より現職。著書に『課長から始める 社内政治の教科書』(ダイヤモンド社)などがある。

 (上島寿子=構成 AFLO=写真)

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