「保育園落ちた日本死ね!」問題 収入の半分以上が保育料に消える母親も

2016.3.19 17:10

 子供が保育園に入れなかった怒りを「保育園落ちた日本死ね!」と書き込んだ匿名ブログの反響で、待機児童の問題が改めてクローズアップされている。

 保育の充実を訴える母親らによる署名活動などが広がる中、後手に回った政府は追加対策の検討を始めた。夏の参院選を見据え、野党は安倍晋三政権を追及する構えだが、都市部では施設の整備や不足する保育士の確保が難しく、具体的な対策を示すのは容易ではない。

 待機児童「ゼロ」は11県

 政府は平成29年度までに待機児童を解消するため、保育の受け皿を50万人分確保することにしている。だが、27年4月時点の待機児童数は約2万3千人と5年ぶりに増加。定員を拡大しても申込者数も増えている状況だ。

 ただ、待機児童数を都道府県別に見ると、大都市に集中しており、最も多い東京都で7814人なのに対し、「0」の県が11あった。問題は偏在している。

 「待機児童ゼロ」を掲げる長野県のある市に住む40代の女性は、「自営業の夫の仕事を手伝っていることにして、子供を保育所に通わせている」と打ち明ける。女性は自宅で趣味の料理教室を開くため一昨年、長女(4)を認可保育所に入れた。

 通常、認可保育所への入所の可否は、勤務実績などから「保育の必要性」を自治体が判断する。しかし、同市では農業で生計を立てる人が多く、「勤務実績は自己申告に頼らざるを得ない」(担当者)という。女性は「幼稚園よりも預かってくれる時間が長いので助かる。働いていないのに預けている母親は他にもいる」と話す。

 「午後4時に退社しないと間に合わぬ」

 一方、都市部の共働き家庭にとって保育所不足は深刻な問題。川崎市の子育て層に人気の地域に住む会社員の女性(41)は、長男(4)と長女(1)を自転車で約20分離れた別々の認可保育所に預けている。「2園回ると会社から家まで2時間かかる。午後4時に退社しなければ間に合わず、業務をこなしきれないこともある」と頭を抱える。

 別々の認可外保育所に長女(3)と次女(1)を預ける東京都練馬区の会社員の女性(32)は、月の保育料が13万円に上る。「収入の半分以上が保育料に消えていく。何のために働いているのか…」と漏らす。

 防音壁必要…1年以上開園ずれ込む

 問題の背景には、施設の整備や人材確保が難しいことがある。

 子供の声などを問題視する近隣住民の反対で保育所の整備が計画通りに進んでいない地域は少なくない。

 東京都目黒区の認可保育所は、昨年4月の開園予定が今年6月までずれこんだ。防音壁設置などの対策で開園にこぎ着けたが、園を運営する会社の担当者は「平穏を守りたい住民の思いは分かる、しかし、保育所は住宅地にこそ必要」と訴える。地価や不動産賃料が高いことも足かせとなっている。

 平均より11万円安い月給…定着阻む

 保育士不足も深刻だ。今年1月時点の東京都の保育士の有効求人倍率は6・24倍と全国トップ。埼玉県は3・45倍、大阪府は2・75倍と、都市部で高い傾向だ。一方、最も低い群馬県は0・9倍だった。

 保育士の月給は約22万円で全職種平均に比べ約11万円安く、人材が定着しない原因になっている。

 「20代半ばで手取り17万円。事務作業も多く、疲れ切って辞める若い人が後を絶たない。

 東京にはほかにも仕事はあるので転職してしまう」と東京都内の保育所で働く40代の保育士は話す。「保育はやりがいのある仕事。待遇が良くなれば、がんばれる人はいると思う」

(中井なつみ)

 「保育園落ちた」ブログ 東京都内の30代前半の女性が2月中旬、投稿した匿名ブログ。子供が保育所に入れず、国への不満を「日本死ね」など過激な表現でつづった。女性は産経新聞の取材に対し、「生活がかかっていたので、感情の赴くままに書いた。(言葉遣いが)否定的にとらえられることは分かるが、待機児童問題解決のきっかけになれば」と述べた。

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