高齢者の骨折 “連鎖”止める対策が急務に

2019.1.11 13:05

 骨粗鬆(こつそしょう)症で骨がもろくなったり、筋力低下で転びやすくなったりすることで起こる「脆弱(ぜいじゃく)性骨折」。中でも高齢者の大腿(だいたい)骨近位部(脚の付け根)の骨折は命に関わることがあるほか、寝たきりを招くなどQOL(生活の質)低下にもつながる問題だ。高齢化の進展で脆弱性骨折の患者は増加しており、対策が急務となっている。(平沢裕子)

 ◆手術待機に4日

 「高齢者の骨折は世界中で起こっている大きな問題。特に女性にとっては深刻だが、治療や予防の効果的な取り組みが行われていない国は少なくない」。こう指摘するのは、英・ロンドン大整形外科名誉教授で、「脆弱性骨折ネットワーク(FFN)」事務局長のデビッド・マーシュ博士。2011年にマーシュ博士が立ち上げたFFNは、脆弱性骨折の最善の治療と適切な2次骨折予防が提供されるための研究と提言を行っている団体だ。

 適切な予防や治療が行われていない国には日本も含まれる。日本の問題の一つは、骨折後にすぐに手術ができないこと。骨折後の手術は36時間以内が望ましいが、日本では手術の待機期間は平均4・4日だ。

 また、日本では手術後、「免荷(めんか)」といって荷重をかけずに骨が付くのを待つ期間を設けることがある。若い人は問題ないが、高齢者では長期間体を動かさないと、筋力が低下し歩くのが難しくなる。実際、大腿骨近位部骨折の場合、術後1年で骨折前と同じように歩くことができた人は4分の1にとどまり、半数で介助が必要となっている。

 日本FFN理事長で福島県立医科大外傷学講座の松下隆主任教授は「手術までに無駄に時間がかかることで筋力が何年分も落ちてしまう。高齢者ではすぐに歩ける治療と早期のリハビリテーションが何より必要だが、態勢が十分といえないのが現状だ」と指摘する。

 ◆最初の骨折で介入

 寝たきりの原因ともなる大腿骨近位部骨折だが、ここを骨折した人の半数は別の部位を骨折した経験があることが分かっている。

 多いのは、橈骨(とうこつ)遠位端(手首のすぐ上)や肩のすぐ下、脊椎などの骨だ。このうち橈骨遠位端骨折は、つまずいてとっさに手をつくなどして起きることが多い。また、脊椎は、腰が痛いなどの症状で調べたら骨折していたというもので、最近は「いつのまにか骨折」とも呼ばれる。これらの部位の骨折は、一度目であれば死亡率に影響することはほとんどない。

 「大事なのは骨折の連鎖を止めること。そのためには、最初の骨折時に徹底的に介入し、その後の骨折が起こらないようにする必要がある」と松下主任教授。

 ◆多職種連携し治療

 2次骨折予防には、最初の骨折後のフォローアップが大事。英国では脆弱性骨折の新規患者をデータベースにのせ、2年間フォローする態勢ができている。

 骨折後のフォローには、外科医だけでなく、高齢者特有の疾病に対応できる老年病専門医や、理学療法士など多職種の専門家が集まったリハビリテーションチームが協力する「多職種連携治療」が不可欠だ。こうした態勢があるのは日本では富山市民病院と新潟リハビリテーション病院の2カ所のみ。日本FFNは、多職種連携治療の日本中での普及を目指し、骨折後の歩行能力の再獲得に力を入れる。松下主任教授は「多くの研究で、2次骨折予防の取り組みの効果が明らかになっている。日本全国どこでも適切な治療が受けられる態勢作りをすすめていきたい」と話している。

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 ■骨粗鬆症治療と転倒予防の取り組み

 2次骨折予防に大切なのは、骨粗鬆症の治療と転倒予防の取り組みだ。

 骨粗鬆症の治療は、薬と栄養、運動で骨を強くし、たとえ転んでも折れない骨を目指す。薬は飲み続けることで骨密度や骨強度が増加していくので、自己判断で中断しないこと。栄養は、骨の主成分であるカルシウムの摂取はもちろん、骨作りを助けるビタミンDとビタミンKもしっかり摂取したい。ビタミンDは太陽の紫外線の働きでも作られる。

 転倒予防では、生活環境の整備が大事だ。高齢者は畳のへりや戸口の踏み段など室内の段差につっかかって転倒することが多い。段差が見えやすいように蛍光テープを貼ったり、スリッパをやめてかかとのある部屋履きにしたりなどの工夫が必要だ。

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