【お金で損する人・得する人】銀行が狙うあなたの退職金 ファンドラップとセット販売の甘い罠

2019.4.10 06:55

退職金 よくある失敗例

 銀行がおすすめする金融商品に退職金を投資したら、半分に減って後悔している―。こんな話を聞いたことはないだろうか。このような人がたくさんいて、そのごく一部がFP(ファイナンシャルプランナー)に相談に来ることになる。これは、リーマンショックなどの金融危機の時だけでなく、平時でも起こるのだ。しかし、一度減った財産を取り戻すことは難しい。後から相談に来るのではなく、事前に相談されることをおすすめする。(ファイナンシャルプランナー・高橋成壽)

銀行の退職者向けキャンペーンの実態

 銀行は退職金獲得に向けて、いろいろなキャンペーンを実施する。例えば、一時的に高金利の定期預金を提示して、その見返りに他の金融商品を販売する手法が多い。いわゆる「抱き合わせ商法」である。

 某銀行では、円の定期預金金利が年率5.6%(ただし、3カ月定期)となっていた。これは年率換算すると5.6%だが、実際は3カ月定期だから実質的な金利は1.4%になる。銀行が顧客への優良誤認を狙うやり方として一般的な手法である。

 では、高金利定期預金の見返りに販売されやすい商品はどれか。

銀行が最も売りたい「ファンドラップ」

 銀行が今、最も売りたいものの1つが「ファンドラップ」という商品だ。ある程度まとまったお金を金融機関に預ければ、投資のプロに資産運用を丸ごとお任せできるというとても便利なサービスがある。その専用口座や商品自体を「ラップ口座」というが、ファンドランプはラップ口座のうち、投資対象が投資信託(ファンド)に限定されている商品を指す。

 「投資信託」は投資する投資信託を自分で選定するが、ファンドラップは、投資する投資信託の選択自体もプロにお任せできる。人間は選択肢が多いと選べなくなるという点と、そもそも選択するにあたり知識がないため、選ぶという行動自体をとることができない人が多い。そのような金融リテラシーに自信が乏しい人には、銀行がおまかせで運用してくれるサービスはとてもありがたいと感じるだろう。

 ちなみに、某銀行のファンドラップは、販売手数料は0円なので、初期費用は0円で済む。投資期間中は金融機関側に支払う信託報酬と投資顧問報酬が発生し、両方合わせると1.5%程度となっている。そのため、ファンドラップの運用成果が1.5%以上見込まれないと、投資の成果が出ない。

 一方で、銀行(ファンドラップの運用側)には、投資に失敗しても残高に対して1.5%の報酬が継続して入ってくる。投資に成功すると成果報酬が上乗せされるので、どちらにせよ儲かる仕組みができている。

 ファンドラップの投資先である複数の投資信託に関しても、所定の信託報酬が発生するため、消費者の見えずらいところで二重に信託報酬が差し引かれたり、信託報酬の割高な投資信託にお金が投じられても、消費者には容易に分からない点も問題だろう。ファンドラップの販売側が悪意を持てば、投資するファンドはすべて自社系列にすることも可能だ。その場合、消費者の利益より自社の利益を優先するような投資スタイルになる懸念がある。

 この某銀行の場合、投資時点での費用が発生しないため、円定期の金利だけ受け取ることができそうだと思う人多いだろう。ファンドラップは最低投資期間が3カ月あり、運用報酬は3カ月分として0.375%控除される。これだけだと、「円定期金利1.4%>運用報酬0.375%」となるため、お得だと思うかもしれない。しかし、3カ月後の運用結果がマイナスであれば、「もう少し様子を見ましょう」と銀行側は投資の継続を勧めるだろうし、市場価格が大幅に下落すれば「塩漬け」になるだろう。塩漬けとは、投資用語で、処分(売却)できずにしばらく放置することになると言った意味合いがある。価格が上昇しプラスになったとしても、そのまま継続投資を推奨できるため、どちらに転んでも消費者は投資を続ける可能性が高い。

「投資信託」とのセットプラン 手数料が割に合わない?

 「投資信託」とのセット販売は損得が比較しやすい。投資信託商品の販売手数料が2%または3%であるため、円定期の金利である1.4%を投資時点で上回るコストが発生する。しかも、販売手数料は、投資期間が短くても安くならないため、投資期間の長短にかかわらず同額が課金される仕組みである。

 加えて、銀行への運用報酬も発生する。運用報酬は商品の種類によって異なるが1%~2%の間である。高コストの投資信託の場合、3カ月の期間限定だとしても、販売手数料3%+運用報酬0.5%(2%の3カ月分)、あるいは販売手数料2%+運用報酬0.25%となる。つまり、「支払うコスト3.5%>受け取る金利1.4%」、「支払うコスト2.25%>受け取る金利1.4%」となる計算だ。

 また投資信託に投資した場合、一定期間後に「他の商品に投資しませんか?」という提案が、銀行側から示されるだろう。その場合は、再度販売手数料を支払うことになる。投資の世界で興味深いのは、損が出ても利益が出ても、販売材料には事欠かないことだ。

「信託」とのセットプラン 財産管理を一任

 まだまだ知名度は低いが、「信託」という仕組みとセットにする銀行も存在する。信託とは、財産を、信頼できる人や機関などに託し、自分が決めた目的に沿って運用・管理・継承してもらう仕組みのことで、「信託銀行」と「信託会社」が販売する商品である。信託商品は「信託」と名前がついているため、投資信託と誤認されているが、目的はまったく異なる。認知症を発症した場合の財産管理を意思能力のある時に決めておいたり、死後の財産管理などを生前に決めておいて、決められた契約通りに財産を管理するものだ。従って、定年のタイミングでのニーズは少ないと考えられる。

 リスクのある金融商品に投資しないように「信託契約」で資金を守ってしまうという方法も考えられる。その場合、信託に預けた資金の使途は、あらかじめ決められた用途以外には引き出すことができなくなるので、注意が必要だろう。

セットプランが販売できなかったら「ひとまず定期預金」

 銀行は、セットプランが販売できなかったとしても、少し高めの金利設定の定期預金を勧めるだろう。なぜなら、預金期間が終われば再度営業のチャンスが訪れるからである。例えば、年率0.45%の3か月定期では、実質金利は0.11%程度。1000万円預けても税差し引き後で1万円を切る金利にしかならない。いったん、超低金利を体験してもらい、再び、元本割れなどのリスクがある他の「リスク性金融商品」を販売するチャンスを作ることができる。

預金の流れを把握されているデメリット

 大きな銀行が将来的に安心だと感じる人を中心に、大手銀行に預貯金が集中するのは当然の流れだが、預けられる銀行側は「利息」という費用を支払う義務を負うことになる。利息の支払いを逃れるには、ファンドラップや投資信託など、預貯金以外の金融商品にお金を投じてもらうことが必要で、その流れを退職金のタイミングと合致させたものが、今回の“退職金プラン”となる。

 銀行が金融機関として有する最大の強み、それは預金を管理していることだ。証券会社と保険会社の場合は、投資する資金を預かる時、消費者の現金または預金口座から自社の預金口座に振り込んでもらう。給料の支払いでも年金の支払いでも、確実に預貯金口座を一度通過することになる。銀行は入金を全て把握しているから、大口の入金があった場合にすぐに営業できる体制を整えているのだ。

銀行のあの手この手

 賢明な読者のみなさんは、先に紹介したような「退職プラン」に飛びつかないと思うだろう。ところが、銀行もあの手この手で営業するし、退職者は世代的に銀行に信頼を置いている人が多い。まさか銀行が自分にとって不利になるような提案を持ってくるはずがないと思っているフシもある。

 銀行のやっかいな手法として、以下のようなものがある。

・元職場の先輩や上司に勧誘させる

・支店長が出てくる

 以前、教職員の方に聞いたところ、校長を定年で退任された方が、銀行に勤めだして、自分たちが定年した後に退職金の営業に来るということだった。狭い世界ゆえ、元上司の誘いをはねつけることは難しいだろう。銀行側の作戦勝ちである。

 支店長が出てくるというのは、なかなか曲者で、自分が大切なお客さまであると思いこませる効果を生む。わざわざ支店長が来てくれた、というのは、何人ものシニア消費者から聞かされた言葉であり、結果として預貯金を丸々投資してしまったという人も少なくない。結果は聞いていないが、相場の状況を考えれば後悔している人が多いのは聞かずともわかることだ。

退職金で失敗しないためのポイント

 そもそも銀行には預貯金を別にして的確な投資のアドバイスができる人はそれほど多くはいないかもしれない。また、勧められる商品は自社系列の商品であったり、金融商品の運用会社(メーカーと言いますう)との資本関係を含むパワーバランスが影響する。自分のために商品を選んでくれているわけではないのだ。すでに銀行で退職金を投資してしまった人は、運を天に任せるか、さっさと解約するのが得策だろう。もし、これから投資しようと考えている人がいるならば、以下の点を提案している金融機関の営業担当に質問してほしい。

・提案者だったらその商品に投資するか

・自分の家族に自信をもって勧められるか

 この2点に自信をもって「YES」と回答できないような提案であれば、やらない方が無難である。筆者の知り合いに、ファンド(投資会社)を作っていた人間がいるが、自分の祖父母に自分の作った商品が販売されるのを想像するのに耐えられなくて会社を辞めた、という。

 営業する側は時に他人事のようでもある。自分や自分の家族にも提案する内容なのかを確認する作業を加えることで、担当者によっては良い商品を提案しなおしてくれるかもしれない。ただ、最後に余談になるが、その担当者は、支店内では評価されないだろう。販売推奨する商品はあらかじめ決められているからだ。

高橋成壽(たかはし・なるひさ)

images/profile/takahashinarihisa.jpg

ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役

1978年生まれ。神奈川県出身。福沢諭吉にあこがれ中学より慶応義塾に入学。同大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。保険、ヘッジファンド、住宅ローン、専門家ネットワークを活用して、お金に困らない仕組みづくりとお客様にとって豊かな人生設計の提供に励んでいる。著書「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務め、全国から、ライフイベントに伴うマネー相談を依頼されている。業界では「FP王子」と呼ばれ、FPの力で日本の抱える社会課題を解決すべく情報発信を続けている。キッズマネースクール横浜を主催し講師活動を行っている。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら

閉じる