【今どきワークスタイル】(5)ワーケーション 旅先や帰省先でも自由に仕事

2019.4.29 11:16

 旅先や帰省先で仕事をする「ワーケーション」が広がっている。長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方を目指す「働き方改革関連法」が今月施行されたことを追い風に、全国の観光地や旅行会社などは新サービスの商品化に乗り出している。ワーケーションの体験者は「日常を離れてリフレッシュできた」と語る。多様化する働き方の最前線で話を聞いた。

 ◆場所にこだわらず

 ワーケーションは仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語。有給休暇の取得率が低かった米国で、急に仕事が入っても旅をキャンセルせずに行き先で働いたり、家族や友人と過ごす時間を増やす生活スタイルとして広がった。

 休暇中に何日か働く日を設ける有給休暇消化型、旅先でリフレッシュする研修型、数日程度の短い期間で集中的に新事業を創出するなどの課題があるハッカソン合宿型など、その形態は多様だ。

 在宅勤務やモバイルワークなど「在社にこだわらない働き方」がすでに進む中、ワーケーションはさらに自由だ。自宅やサテライトオフィス、電源のあるカフェなどに働く場を特定せず、文字通り、バケーションで行くような場所が選ばれることも多い。

 ◆森でリフレッシュ

 特別養護老人ホームなどを営む社会福祉法人「福祉楽団」(千葉市美浜区)は昨秋、就職2年目の研修に1泊2日のワーケーションを初めて導入した。

 対象は20代前半の介護職員ら30人余。各事業所へ配属された同期生がキャンプ場で再会し、アウトドア事業「スノーピークビジネスソリューションズ」(SPBS)の支援で、自然の中でチームビルディング研修に臨んだ。メンバーが個性を生かしながら、目標に向かって一丸となることを目指す研修だ。

 福祉楽団人事部の原田貴征さん(40)は「手探りを続け、葛藤が多いこの時期、初心に戻って目標を再確認することは大切」と語る。特養ホームなどでは利用者の死に直面し、壁にぶつかる職員もいる。「夜、静かな森でたき火を囲んで仲間と酒を飲むと、本音をぶつけ合える」

 実際に、離職を踏みとどまった職員もいた。より責任ある業務を志願した介護士も。「介護事業は地域との関わりが大切。ワーケーションは理念の共有にも役立った」と振り返る。

 航空大手「日本航空」は平成29年から導入している。和歌山県白浜町の南紀白浜空港そばでテレワークをしながら、熊野古道の補修ボランティアや町との意見交換に参加する。

 個人での導入も推奨し、帰省先や旅先から定例会議に出席するなど、働きつつ、休暇も取る環境を整えている。

 ◆観光振興にも一役

 受け入れ先の整備も進む。不動産大手「三菱地所」は5月上旬、南紀白浜空港そばの「第2ITビジネスオフィス」にワーケーションオフィスを開業する。利用対象は同社のビルに入居する全国の約2200社。

 山形県大蔵村の肘折(ひじおり)温泉も、湯治しながら仕事や研修を行う企業向けのワーケーションを提案中。

 旅行大手「JTB」とSPBSは4月、ハワイでのワーケーションを支える企業向け旅行商品の販売を始めた。映画のロケ地で有名なクアロア牧場などにテントを張り、拠点とする。3年間で60社の利用を見込んでいる。

 SPBSの藤本洋介取締役(39)は「働く人の休息や企業の生産性向上だけでなく、平日に温泉やリゾート地の稼働もできる。何より、自然の中で働くことで普段と違う発想が生まれる」と拡大に意欲的だ。

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 ≪編集後記≫

 海外の人気テレビドラマ「アグリーベティ」や小説でワーケーションが出るたび、なぜ企業幹部が全員、旅行中なのか不思議でしたが合点がいきました。福祉楽団は珍しいことに若手研修に導入。新しい働き方に敏でないと採用もままならない時代です。「人材育成と離職防止にワーケーションは役立つ」と、絆の深まりについても話していたのが印象的でした。(牛田久美)

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