【100歳時代プロジェクト】健康づくりの「伝道師」を養成

2019.6.4 13:13

 ■口コミで無関心層取り込め

 健康意識の高まりもあり、100歳まで生きられることが当たり前となりつつある一方で、健康づくりにほとんど関心のない人が全体の7割を占めるというデータがある。これらの人の意識や行動を変えるには、知人や家族による口コミが最も効果的だと分かり、現在、その役割を担うボランティアの「健幸アンバサダー」が全国で養成されている。取り組みが盛んな静岡県三島市で活動を取材した。(山本雅人)

 ■知人だから聞く

 女性向けのフィットネスジムを全国で展開する「カーブス」(本社・東京都港区)。三島市に2つある店舗の一つ、カーブス三島徳倉(とくら)では、約60人の会員が健幸アンバサダーの資格を取得している。

 その一人、鈴木恵子さん(49)は昨年12月の市主催の養成講座を受講、資格を取得した。全国で行われている講座の平均的なパターンは、約半日のコースで、寝たきりにつながるサルコペニア(筋肉減少症)と筋トレ▽がん予防と健診のすすめ▽歩数が自然に増えてしまうような都市づくり-といった講義や、他人に伝える際の技術も学ぶ。

 鈴木さんは資格を取得する以前から健康づくりの大切さを知人らに伝えてきたというが、「医学データに基づく講義を受け、伝える際に説得力をもって話せるようになった」と話す。

 知人の菊地香子さん(44)も鈴木さんから運動を勧められた一人で、その話に共感し、トレーニングを始めた。「鈴木さんの話はもちろん、実際に元気なその姿を見て、やってみようかな、という気持ちになった」と口コミの効果を明かす。

 健幸アンバサダーのプロジェクトを主催する社団法人スマートウエルネスコミュニティ協議会の久野譜也副理事長によると、平成22年に無作為抽出の5000人を対象に調べたところ、7割の人が健康づくりに無関心だと分かった。

 さらに27年に、自治体の健康づくり事業に参加した6500人を対象にした調査では口コミがきっかけとなって参加した人が42%もいただけでなく、無関心層が口コミにより多数参加していたことが分かった。次に多かったきっかけは自治体の広報紙だったが、口コミの半分以下の17%だった。

 ■芽生えた使命感

 このことから、無関心層の意識を変え、運動や食事などの生活習慣改善の行動に結びつけてもらうには、口コミで健康情報を広める「伝道師」の存在が重要との認識から生まれたのが健幸アンバサダーの制度だ。

 現在、同協議会に参加する自治体や企業などが、住民や社員、その家族や顧客に呼びかけて講座を受けてもらう形で養成。全国で約1万7000人がアンバサダーに認定されている。参加企業の中でもカーブスは養成に力を入れ、全体の約7割に当たる約1万2000人が同社の社員やジムの会員だ。

 また、同社は昨年、三島市と市民の健康増進に向け連携する旨の協定も結んだ。カーブス三島徳倉の店長で、トレーニングの指導も行う坂部静香さん(30)は「協定により、店舗の外の市民の方々の健康づくりにも貢献するという使命感を持つようになった」と語る。坂部さんもアンバサダーに認定されている。

 同協議会がアンバサダーにアンケートを行ったところ、一人当たりの平均で、15人の知人に健康情報を伝え、伝えた相手の半数以上、無関心層に限っても4割が健康づくりの行動を起こしていることが分かった。同協議会では令和12年度までに、200万人のアンバサダー養成を目指しており、健康寿命の延伸や国民医療費削減の効果が期待されている。

閉じる