業務厳選、退会可能も 「ブラックPTA」は変われるか

2019.7.3 06:55

 本来は入退会自由の任意団体であるPTA。だが、実質的には退会が許されない、役員になるよう迫られるなどでブラック企業ならぬ「ブラックPTA」などと称されることもある。ところが近年、負担軽減などの改革を進めるPTAが増えている。背景には、共働き家庭の増加があるという。(加納裕子)

 退会規約作成に着手

 「専業主婦の役員ありきの活動量で、いずれ立ちゆかなくなる。業務の必要性を見極めて、来年の役員に引き継ぐときに変えたい」。大阪府枚方市立小倉小学校のPTA会長、水野奨さん(36)はこう話す。

 今年4月に会長に就任すると、委員の選出や委任状の集計、秋のイベント準備などに追われた。専業主婦を中心に毎日のように集まって業務をこなしたが、水野さんは「全員が共働きだったら成り立たない」と実感。会議に出席しなければならない役員を減らすなどの改革を行った。

 保護者からは「退会規約がないのはおかしい」との声もあがっており、規約の改訂案作成に着手した。水野さんは「地域や先生と保護者をつなぐ機能は必要。削れるところは削って、負担に思わない環境で役員ができるようにしたい。正しく理解してもらうためにも、情報を丁寧にオープンにしたい」という。

 兵庫県川西市では昨年秋、越田謙治郎市長(41)が保護者の負担軽減などを話し合う検討会の設置を公約に掲げ、初当選。その後、PTA役員や学校関係者、学識経験者ら検討会メンバーの選定を進め、20日に第1回会合を開く。

 背景には「任意加入なのに、入学と同時に加入しているのはおかしい」「やめ方がわからない」「平日昼間の活動ばかりで参加できない」といった保護者からの苦情があったという。検討会では2年間かけてPTAのあり方を協議。担当者は「話し合いの中で形になれば、すぐに現場の運用に反映させていく」と話す。

 背景に女性活躍

 PTAに詳しいジャーナリストの大塚玲子さん(47)によると、負担軽減が議論され始めたのは平成28年ごろ、女性活躍推進法が施行された時期と重なる。共働き家庭が増え、専業主婦の動員を前提とした従来の活動が難しくなったことが背景にあるとみられる。大塚さんは「PTAの業務は学校の手伝いや学校への資金提供、勉強会など幅広すぎる」と指摘する。

 さらに、改革が進むきっかけになったのが、29年5月の個人情報保護法改正だ。それまでは5千人以下の事業者は法の対象外だったが、個人情報を扱うすべての事業者に適用され、PTAも対象になった。このため会員名簿の作成や運用に本人の同意が必要になり、これを機に不加入を認めたPTAも。ただ、現在も、不加入や退会を許さない、役員決めが終わるまで帰れないなど強制的な側面を持つPTAも少なくないという。

 大阪府PTA協議会の名村研二郎会長(48)は「PTAの存在自体が悪いわけではない。ただ、今のPTAにつきまとう義務感、強制感、不公平感をなくすよう見直し、『できる人が、できる時に、できることをする』という活動にしていくことは必要だ。今、PTAのあり方=大人のあり方が問われている」と話している。

 戦後の枠組み「変わるべきとき」

 PTAは「ペアレント・ティーチャー・アソシエーション(父母と教職員の会)」の略で19世紀末に米国で誕生。国内では戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指導で昭和21年、文部省内に「父母と先生の会委員会」が設置された。翌年、PTA結成のための手引書が作成され、急速に全国の学校で組織化されていった経緯がある。

 親が学校や公共のために奉仕する姿を子供に見せ、子供のボランティア精神を育てるといった側面もあったが、近年では親が子供の前で「なぜ、こんなことをさせられるのか」とPTAを批判するなどし、逆効果も生じている。

 PTAに詳しい大阪教育大学教育学部の小崎恭弘准教授(保育学)は「時代の変化、多様化の中で、戦後構築された枠組みでうまくいっていた時代が終わりを告げている。PTAも悪いとか不必要とかいうことではなく、変化すべきときだ」と分析。「公共性と個人主義のバランスを取りながら、子供にとって大切なことは何かをもう一度考え直す必要がある」と指摘している。

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