【沖島から】初の民泊「湖心」オープン 住民と旅行者、交流の場に

2019.9.10 11:06

 琵琶湖に浮かぶ沖島(滋賀県近江八幡市)。豊かな自然に囲まれ、古い民家が並ぶ路地の一角に、島で初めてとなる民泊「湖心(ここ)(koko)」がオープンした。人口減少が進む島で、宿泊客に住民と交流してもらうことでの地域活性化が狙い。東京から同市にUターンした男性が管理人を務めており、「島の魅力を知ってもらい、活気を取り戻すきっかけの場所になれば」と期待を込めている。   (清水更沙、花輪理徳)

 味わいのあるふすまに畳…。築40年超の民家のたたずまいを残す湖心には、どこかノスタルジックな雰囲気が漂う。「実家にいるように落ち着けると好評です」。管理人の塚本千翔(ちしょう)さん(27)が語る。

 長年空き家だったが、3年前に地域活性化を目指す沖島町離島振興推進協議会が改修。しばらくは研修施設として利用されていた。

 人口約250人の島には2軒あった民宿のうち、1軒は経営者の高齢化のため営業休止に。島を訪れる観光客は増加傾向で、民宿に比べて手軽に開業できる民泊施設への転用が決まった。沖島に多くの人が訪れるようにとの願いと、湖の中心との意味を込めて「湖心」と島民が命名した。

 東京でサラリーマンをしていた塚本さんは学生のころから大の旅好き。都会の喧噪(けんそう)から離れた離島にひかれ、将来暮らそうと夢を描いていた際、ふと故郷・沖島の存在が浮かんだ。「美しい自然やのどかな光景。理想にぴったりな島があるじゃないか」

 勤め先を辞めて昨夏から沖島に通ううち、同協議会から声がかかり、管理人に就任。5月のオープンにこぎつけた。

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 湖心は、協議会の運営の下、塚本さんが1人で切り盛りする。予約が入ると、自宅がある対岸から定期船で沖島へ。客を出迎えるために、部屋を整えたり周囲を掃除したりと準備にいそしむ。

 客室4部屋のほか、1階のリビングは宿泊客や住民の交流の場として開放。塚本さん自身もこの場所で宿泊客と旅の話をすることが何よりの楽しみだ。話が弾み、登山好きの客と翌朝、島を一望できる「ケンケン山」を登ったことも。

 オープンから4カ月。宿泊客はSNS(会員制交流サイト)で徐々に増え、これまで京都や兵庫、茨城などからも訪れた。塚本さんは喜ぶ一方、「島には島のルールがある」と語る。宿泊客には島民の迷惑になることがないよう、必ず「夜、路地は静かに歩いて」といったルールの説明を行い、客と住民の間に亀裂が入らないように配慮もする。

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 「今、沖島はターニングポイントを迎えている」と協議会の本多有美子会長は説明する。島では、現在約250人が暮らすが、担い手不足で島の経済を支える漁業従事者数が激減。

 活気を呼び戻すために観光に力を入れる動きがある一方、島民の中には「昔ながらの漁村の風景がなくなるのでは」と危惧する声もあり、本多さんは「島民の生活を守りつつ、長い目で見て島のためになる事業をしていく必要がある」と語る。

 現在、湖心と協議会は宿泊客に寺での勤行や漁業の体験ができるプランなどを考案中だ。塚本さんは「観光客が島の人と交流することで沖島に興味を持ち、その延長線上に島と関わりたい人が増えれば」と話している。

 ■湖心(koko)

 港から徒歩3分。食事は出ないが、食材を持ち込み、台所で調理ができる。チェックインは午後4時、チェックアウトは午前10時。1泊3500円。問い合わせは塚本さん(090・6825・9659)。

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