現横浜市庁舎の一部保存し ホテルに 30階建て複合施設建設へ 令和6年度の開業目指す

2019.9.12 18:49

 令和2年の東京五輪までに新市庁舎への移転を目指している横浜市は、移転後の跡地利用の事業計画を発表した。近代日本を代表する建築家の村野藤吾が設計した現市庁舎(同市中区)の行政棟はホテルなどとして保存活用し、議会棟と市民広場がある場所には、大学や商業施設などが入居する地上30階、地下1階の超高層ビルを新築する。約6千人の市職員を伴う移転によって、関内地区の“地盤沈下”が懸念されていたが、にぎわいを呼び戻す港街の名実ともに「一丁目一番地」となることが期待される。

 現市庁舎は7代目で、村野が設計し、開港100周年記念事業として昭和34年に完成した。平成27年度には、文化庁が実施した近現代建造物緊急重点調査で、最重要建造物の一つに位置付けられた。

地域密着型ホテル

 だが、建物の老朽化などを理由に移転が決まった。市は今年、再開発計画案を公募し、三井不動産を代表とする企業グループに決定した。構成企業は、京急電鉄や東急、DeNA、関内ホテルマネジメント(星野リゾートの子会社)-など計8社だ。

 保存と解体双方の計画案があった行政棟は、全国で宿泊施設を展開する星野リゾートの子会社が、3~8階をホテルとして保存・活用する。築60年の歴史を持つ同棟を改修し、「レガシーホテル」と名付けて運営。ホテルスタッフが宿泊者に市内を案内する「地域探訪ツアー」を実施するなど、地域密着型のホテルを目指す。ホテルロビーなどには、現市庁舎の市民広場の外壁や天井レリーフなどを移設・復元。1~2階は、商業施設になる。

 一方、議会棟と市民広場は解体する。その跡地に国際的な産学連携の拠点となる30階建て高層ビル(高さ約161メートル)を新築する。

ライブビューイング

 高層ビルの15階以上は、グローバル企業の入居を想定したオフィスフロアで、すでに国内トップレベルのグローバル企業が内定している。11~14階には、教育・研究活動を展開する総合大学を誘致する予定だ。

 そのほか低層階には、DeNAが運営するライブビューイングアリーナが入る。大型モニターで横浜スタジアムが本拠地のプロ野球・横浜DeNAベイスターズの試合などの映像を楽しむことができる。

 また、市内最大級のベンチャー企業支援拠点として、小規模オフィスなどを設置する。さらに、敷地内には交通拠点も整備し、羽田空港や神奈川県の箱根、鎌倉と結ぶ直行便を運行する予定だ。

 施設全体の延べ床面積は約11万7千平方メートル。事業費は約500億円に上るという。全体開業は、6年度末を目指している。

 市は来年12月に同グループと基本計画協定を結び、現市役所を有償譲渡。敷地は、78年間の定期借地で貸し出し、3年1月に改修・解体工事などに着手する予定だ。

 新市庁舎へ移転後、現市庁舎の工事に着手するまでの間、東京五輪の大会組織委員会が、現市庁舎を横浜スタジアムで行われる野球・ソフトボール競技の運営施設として利用する。

関内の新たな活力に

 市は来年6月の移転を目指し、JR桜木町駅近くの北仲通地区(同市中区)で新市庁舎の建設を進めている。だが、移転をめぐり、景観との調和や、移転後に関内地区の商業が低迷し、にぎわいの低下につながる可能性などが問題視され、関内駅周辺の一体的な街づくりが課題となっていた。

 そのため、市は募集する計画案のテーマを「国際的な産学連携」と「観光・集客」の2本柱とし、今年1月に公募を開始。3グループから応募があり、8月下旬に審査委員会の答申を受けて、三井不動産を中心とする企業グループの計画案に決定した。

 同案が唯一、行政棟を現在位置で活用する案だったことなどが評価されたという。林文子市長は「横浜らしい景観を継承しながら、今まで以上ににぎわう活用方法だ。関内の新たな活力となる施設になってほしい」と期待を語った。

 【村野藤吾】

 明治24年~昭和59年。佐賀県生まれ。早稲田大学卒業後、大阪を本拠に活躍し、数多くの建築作品を残す。広島の世界平和記念聖堂は戦後の建物として初めて国の重要文化財に指定された。42年に文化勲章。

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