【乗るログ】山が似合う超軽量2シーター アルピーヌA110で味わう自在の走り

2019.9.21 07:00

 先日、新型のアルピーヌ「A110」に試乗した。もしかすると、その名前を聞いてもピンとこない方もいるだろう。なにせ、かつてラリー界を席巻した初代モデルは約40年前に生産終了したのだ。そんな伝説的なフランス生まれのスポーツカーが、2シーターのミッドシップ(MR)に姿を変えて復活した。先代と同様、とにかく軽量化にこだわっているという。フレンチアルプスに行けない代わりに、箱根のワインディングに連れ出して“自在の走り”を味わってきた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)

 受け継がれたDNA

 3年前の2016年10月11日に、東京・六本木で一台のクルマがお披露目された。コンセプトカーの「アルピーヌ ビジョン」だ。長らく表舞台から姿を消していたアルピーヌは紆余曲折を経て、ようやくこの場でブランドの復活と、2018年のニューモデル投入宣言にこぎ着けたのだ。

 この「アルピーヌ ビジョン」は当時すでに完成間近であり、ほぼこのままのデザインで発売されると関係者から聞いたように記憶している。会場の入り口付近には初代A110が展示してあった。4灯の丸形ランプや、ルーフからリヤエンドにつながる独特のボディラインは、そっくりそのままアルピーヌ ビジョンへと受け継がれていることがよくわかる。1973年に始まった世界ラリー選手権(WRC)でいきなり年間6勝を挙げ、初代マニュファクチャラー(製造者)王者に輝いた栄光のマシン。当時の活躍ぶりは筆者が生まれる前の話であり、A110についてさほど詳しくは知らなかったのだが、新旧のアルピーヌを前に「共通するカッコよさがあるなあ」と思わず見とれてしまった。アルピーヌ ビジョンはこの名車A110の名前を継承する形で、2018年に販売開始されたのだ。

 1950年代に設立されたアルピーヌはかなり複雑な系譜をたどってきたが、現在はルノー傘下のスポーツカーブランドである。新型A110はルノー・メガーヌR.S.と同系の1.8L直列4気筒直噴ターボエンジンを搭載しているが、スペック的にはメガーヌR.S.より控えめの最高出力252PS/6000rpm、最大トルク320Nm/2000rpmとなる(※メガーヌR.S.は279PS/6000rpm、390Nm/2400rpm)。これは恐らく車重や駆動構造、車両タイプの違い、そしてトータルバランスを考慮した結果だろうと推測する。

 初代モデルはRR(後輪車軸より後方にエンジンを配置して後輪を駆動する方式)の2+2シーターだったが、新型A110は2座席のMR方式に生まれ変わった。ちなみにMRとは車両の中央付近にエンジンを配置する方式で、運転席と後輪車軸の間にエンジンを配置して後輪を駆動するのが一般的だ。

 新型A110はスポーツカーの生命線とも言える車重の軽量化にも徹底してこだわっている。今回試乗した「ピュア」という最軽量グレードは全長4205×全幅1800×全高1250mmのボディに1.8Lターボエンジン、7速AT(DCT)、前後ダブルウィッシュボーンサスペンション、18インチタイヤを組み合わせていながらも、現代のクルマとしては驚異的ともいえる車重1110kgという身軽さを誇る。その秘密は96%アルミニウム製の軽量ボディや1脚14.1kgのサベルト製モノコックバケットシート、カーボンを用いた内装パネルやアルミを採用したサスペンションコンポーネントなどにある。センターコンソールは中央をごっそりとくり抜いたフローティングタイプ。シフトレバーに代わるボタン式ギアセレクターなど、様々なデバイスを電子化できる現代だからこそ可能な、非常にモダンなデザインだ。

 得意なエリアはワインディング

 1973年にラリー・モンテカルロで勝利したA110をオマージュした「A110ピュア」が最も魅力を発揮するのは屈曲路のはず。究極のライトウェイトMRに乗り込み、そのまま箱根のワインディングを目指した。偶然にも箱根ターンパイクのプロモーション動画に登場するのが新型A110でもある。

 着座位置はかなり低い。ゆえに煩わしい乗降性も、スポーツカーの魅力の一つだと考える。ホールド性の高いシートは、座面と背もたれが一体化したモノコックバケットシートだ。前後スライドは可能だが、一体型のためリクライニングや高さ調節はできない。基本的には足の長さに合わせてヒップポイントを定め、ステアリングを前後上下に動かして最適のポジションを取ることになる。右ハンドルモデルはグローブボックスがないなど車内の収納はほぼ皆無。以前、某元F1ドライバーがテレビ番組で「スポーツカーに収納なんていらないじゃん」と言っていたことを思い出した。

 軽やかな走りに感動

 スタート地点は横浜の市街地だったのだが、まず驚いたのがやはりというべきか、その軽さだった。走り出してわずか数メートル、一発目のカーブでハンドルを切った瞬間に「軽ッ!」と唸ってしまった。こんな“平凡”な場面でも分かりやすく表れるほどに、普段から乗り慣れている感覚とは明らかな違いがあるのだ。

 高速道でアクセルを踏み込めば7速DCTが継ぎ目なくリレーし、背後から雑味のない滑らかなエンジン音を響かせながら鋭く加速する。とはいえ大排気量パフォーマンスカーのように過敏に反応する荒さはない。そもそもそれほど爆発的なパワーを秘めているわけではない。だがむしろ、「1.1tの車重ならこのくらいがちょうどいい」と納得できるほど、パワーユニットの味付けが絶妙だと思えた。

 箱根のワインディングでは、MRならではの正確で軽やかなハンドリングに魅了されてしまった。ハンドルを切れば面白いようにスイスイとカーブを駆け抜けていく。A110の前後重量配分は44:56で、重心はドライバーの着座点にある。まるで駒を回すかのように、自分を中心にクルマが右へ左へと旋回するのだ。操舵フィールはわずかな舵角にも反応するクイックタイプだが、ハンドル自体の反力はわずかで非常にライトな印象。軽く手を添えるだけで優雅に操ることができるのだ。エンジンが後ろにあるので、とにかくフロントが軽くてよく曲がる。この俊敏で軽快なコーナリング感覚はまさに超軽量ボディとミッドシップエンジンの融合による賜物である。

 走行モードは「ノーマル」「スポーツ」「トラック」から選択可能。それぞれにトランスミッションのギアシフトプログラムとアクセルペダル、エンジン回転数に関する制御プログラムが設定されており、高回転型のセッティングで最大パフォーマンスを発揮する「トラック」はどうやら、パドルシフトを操作するマニュアルモードのみ設定されているようだ。

 いずれのモードもスポーツカーの中では足回りがしなやかで、細かいバンプの衝撃を次々と吸収していく。フロントブレーキにはブレンボ製アルミモノブロック対向式4ピストンキャリパーを採用。ハイパフォーマンスカーが装着するような強烈な制動力ではないが、A110の走り味にマッチした扱いやすさを感じた。後輪には走行状況に応じてトルク配分を電子制御するトルクベクタリングやESC(横滑り防止装置)といったテクノロジーも搭載している。一歩間違えるとスピンしやすいライトウェイトMRに安定性と快適性をもたらしているのだ。

 ハーレーおじさんも大興奮

 ちなみにA110はルーフ中央がくぼんだ「ダブルバブルルーフ」を採用している。車体を正面から見たときの面積を減らし、空気抵抗を軽減するなどの効果があり、最近ではトヨタの新型スープラも採用している。A110のデザインの美しさについてはぜひ写真を見ていただきたい。箱根で撮影中に、ハーレーに乗ったバイカーが「これ、カッコいいねぇ! 写真撮っていい?」と話しかけてきたほどだ。「最初のモデルも青がイメージカラーだったよね? 昔、カーグラフィックの表紙とかで見て憧れたんだよ」とかなりテンションが上がった様子で、写真を撮ると、大音量でブルース・スプリングスティーンをかけながら颯爽と去っていた(※この記事に気付いてくれたら嬉しいです!)。

 それにしても、こんなに気持ちよくワインディングを走ったのはいつ以来だろうか-。年間に何百台も試乗する自動車ジャーナリストでも、これほど強い一体感を味わえるクルマと出会うことはそうそうないのではないか…などと考えてしまった。そして、誰でも自在に操ることのできる扱いやすさも印象的だ。

 アルピーヌA110は想像通り、箱根の山のワインディングが似合うクルマだった。もちろん、市街地でもキビキビと走りやすかったことを付け加えておこう。

【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら

■主なスペック(アルピーヌA110ピュア)

全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm

ホイールベース:2420mm

車両重量:1110kg

エンジン:ターボチャージャー付直噴直列4気筒

総排気量:1.8L

最高出力:185kW(252ps)/6000rpm

最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm

トランスミッション:電子制御7速AT(7DCT)

駆動方式:後輪駆動(MR)

タイヤサイズ:(前)205/40R18(後)235/40R18

定員:2名

燃料タンク容量:45L

燃料消費率(JC08モード):14.1km/L

ステアリング:右(左も選択可能)

ボディカラー:ブルー アルピーヌ M

車両本体価格:811万円(8%税込)

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