空き家を活用し集いの場に 横浜のNPO、市の費用負担に課題も

2019.10.5 18:00

 神奈川県内で空き家の増加傾向が続くなか、倒壊や犯罪の温床となる可能性に対する不安が広がっている。対応に苦慮する各自治体は、補助金の交付などで対策に乗り出しているが、民間団体のなかには、自治体の制度などを活用し、空き家を地域の活動拠点として再利用する動きもある。ただ、補助金制度が空き家活用への後押しとなる一方で、借り手と貸し手の意識の違いから、活用される空き家は限られているのが実情。空き家が実際にどれだけ減るかは見通せない状況だ。

 10年以上も放置

 横浜市営地下鉄ブルーライン阪東橋駅から歩いて約15分。新旧の家々が入り交じる住宅地に、長年放置されてきた古民家がある。

 横浜市南区中村町にある築57年の瓦ぶきの木造2階建て。所有者は、居住していた親の死後、家具の処分が面倒だったことなどを理由に、約13年間、空き家にしていた。家のなかには布団や洋服、冷蔵庫などの電化製品や家具が置かれたままだった。

 今回、この空き家の活用に名乗りをあげたのは、同区に住む母親たちで構成し、高齢者の買い物補助などの活動をするNPO法人「おもいやりカンパニー」。空き家を改修し、クレープや弁当などの軽食を販売するほか、カフェスペースなども設けた。

 子供や高齢者たちが集える“多世代交流拠点”として、1日に正式オープンした。同法人は、空き家を有効活用するとともに、希薄化する地域コミュニティーの活性化や、通学路の安全性向上などにつなげたい考えという。

 費用は約900万円

 代表の津ノ井美晴さん(37)によると、これまで約10件ほど空き家の利用を断念してきた。多くは所有者不明で連絡が取れなかったり、高齢化した所有者やその家族が貸し出しを躊躇(ちゅうちょ)したりなどを理由に、断られたという。

 津ノ井さんたちは4カ月間、物件を探し回り、残された家具を処分するという条件で、空き家を借りるに至った。津ノ井さんは「駆け込みだったから、処分をお願いしたら、契約を断られるかもしれないと不安に思った。借りられないよりはマシだった」と話す。

 家賃は月額5万5千円で借りる一方で、活動拠点として利用するための改修工事費や備品代などは、総額計約900万円に上った。同物件は築57年と古く、耐震工事や減築工事などが必要だったためだ。

 同法人は、市の「ヨコハマ市民まち普請事業」に認定され、計500万円の補助金が交付されることとなった。だが、耐震工事費用などは同事業補助金の対象外のため、残りの約400万円は自分たちで何とかしないといけなかった。

 市内に17万8千戸超

 また、市が用意している木造住宅の耐震工事などの補助金制度は、所有者や一親等の親族が居住している場合のみ対象となるため、利用ができなかった。津ノ井さんは「空き家には耐震工事が必要な物件が多いなかで、それが自腹であることは疑問。せっかく手を挙げた人たちが、資金が足りずに断念せざるを得なくなる」と指摘し、「そこまでして、空き家を使おうとする人も少ないと思う」と、費用負担は今後の大きな課題としている。

 結果的に、地域住民たちからの寄付金やクラウドファンディングで計約220万円募り、改築に至ったが、現在、市内の空き家総数は、17万8千戸(平成25年時点)を超す。市は、空き家の適切な維持や管理に結びつけようと対策に乗り出しているが、さらなる対策は急務だろう。

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