畑を身近に 北海道農業ツアー ホテルが野菜栽培、収穫体験も

2019.11.7 07:49

 日本の食料基地、北海道で農業を観光に生かす取り組みが進んでいる。ホテルの自社栽培野菜や、ガイドが案内する畑ツアーもあり、収穫した野菜をすぐに食べられるのが魅力の一つだ。「体にいい野菜を作る」という農家の思いが伝わる機会ともなっており、急増する訪日外国人客にも人気がある。(寺田理恵)

 ◆五輪でおもてなし

 「札幌パークホテル」(札幌市中央区)は、市内の山間部にある自社農園約500平方メートルでトマトやジャガイモなどの自然栽培に取り組んでいる。農作業をするのは営業や調理など多様な部門のスタッフだ。

 雨の中、収穫した食用ホオズキを口に入れ、「おいしい。もう一個」。ジャガイモ掘りでは「宝探しみたいだ」と声が上がった。

 農園は農薬や肥料、除草剤を使わない自然栽培を指導する「盤渓(ばんけい)ネイチャーズ」(同)の畑の一部約500平方メートルを借りている。同社の高木晃社長は「雑味がなく、野菜そのものの味に育つ」。昨年は複数組の外国人観光客が同社の畑を訪れ、収穫した野菜を同社レストランで調理して食べたという。

 ホテルの沢田幸和マーケティング課長は「安全でおいしい野菜がどのように作られるかを実際に体験することで、より良いサービスにつながる」と話す。

 スタッフが収穫した野菜は朝食ビュッフェなどで提供する。東京五輪のマラソンと競歩の札幌開催が決まり、沢田さんは「関係者や観戦客が国内外から訪れる時期は収穫物が最も充実する。おもてなしの一つとして、野菜をしっかり育てたい」と意気込む。

 ◆「農場ピクニック」

 北海道の広さを体感できる有数の畑作地帯、十勝平野では「畑ガイド」の案内で農場を歩くツアー「農場ピクニック」が好評だ。

 広大な畑の中に自動運転の巨大なトラクターが並ぶ「道下広長(みちしたひろなが)農場」(帯広市)。ピクニックに参加した一行は、手作業で掘ったばかりの長イモをバター焼きにして食べた。

 北海道では観光客の急増に伴い、無断で農地に入り込む被害が問題化。靴に付いた害虫などが持ち込まれる恐れがあり、農場への立ち入りは原則禁止だが、ここでは、専用長靴を用意してツアーを受け入れている。

 「作物本来の育ち方をすれば虫が付きにくく、農薬もあまり使わない。体にいい食べ物を作るという農家の思いを知ってほしい」と農場の道下公浩社長。

 ツアーを実施するのは平成25年設立の観光業「いただきますカンパニー」(同)。忙しい農家に代わり、畑ガイドが作物や農家の思いを説明する。参加者は年間約2千人。約3割をシンガポールや台湾などの外国人が占める。

 同社の岡野香子(きょうこ)さんは「畑を歩くこと自体が珍しい。寒暖の差が激しい十勝で育つ野菜は甘みがギュッと詰まっている。ただ、収穫体験がメインではない。本物の生産現場を知ってもらうため、害虫などが持ち込まれるリスクも含めて伝えている」と話している。

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