介護受けても「当たり前の暮らし」 レストラン併設、住民に「仕事」

2020.1.17 07:26

 介護が必要になっても、役割をもって暮らしたい。そんな「当たり前」を実現しようと、事業者も知恵を絞っている。千葉県のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、建物にレストランを併設し、住民に“仕事”を提供する。称して「仕事付きサ高住」。障害や認知症があっても、普通の暮らしが願いだ。

 千葉県船橋市の住宅街に、サ高住「銀木犀(ぎんもくせい)船橋夏見」がある。その一角は、ランチタイムに豚しゃぶが食べられるレストランになっている。香取市で就労支援施設を運営する仲間の社会福祉法人が出店する。

 午前10時、明るい日差しが降り注ぐレストランで、小林良子さん(81)=仮名=がピクルスを小皿に分けていた。ニンジン、ダイコン、キュウリなどを、ゆっくり盛りつけていく。

 小林さんは1人暮らしが困難で、介護保険の要介護認定を受けて銀木犀で暮らす。外部のデイサービスを利用しながら、週3~4回、開店前のレストランで準備の仕事に携わる。ピクルスや漬物を盛りつけたり、テーブルを拭いたり、仕事はマイペースで進む。

 「職員の方から手伝ってほしい、と言われてやっているんです。デイサービスに行くより楽しいですよ」と小林さん。少しだが、働いた対価も受け取れるのがやりがいになる。

 50代半ばまで老人ホームの厨房(ちゅうぼう)で働いていた。栄養士の指示に従って料理を作る仕事だ。「おいしいね、とほめられるのが一番うれしいですよ」

 レストランを併設した狙いを、銀木犀船橋夏見の大下誠人(のぶひと)所長は「心と体を持て余している人が多い。仕事や役割を提供することで支えたい」と説明する。今はサ高住の住民4人がレストランで働く。70~80代で要介護度は1~3。認知症の人もいるが、できることはたくさんある。有償の仕事以外にも銀木犀は駄菓子屋も併設。子供相手の店番のボランティアなど、“仕事”の創出に知恵を絞る。「ぼくらも1人の働き手として頼りにしている」。大下所長はそう力を込める。

 移り住んだ後で、「帰りたい」と言い出す人も、周囲から必要とされ、ここが居場所だと思えると落ち着いてくる。役割を持って働くことが輝いて見えるのか、他の住民からも「私もやりたい」との声が上がる。大下所長は、「今後は、レストラン外の仕事や、ホールに立つ仕事など、徐々に範囲を広げていけるといい」と話している。

 サービス付き高齢者向け住宅 安否確認や生活相談サービスなどがある高齢者向けの住まい。バリアフリー構造で、居室にキッチンやトイレ、浴室を備える。自立でも利用でき、介護保険サービスが必要な人は別途契約する。全国で約23万戸が整備されている。

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