コロナ拡大で高齢者施設悲鳴 マスク不足・健康危惧・職員の負担増

2020.3.27 06:58

 神奈川県の黒岩祐治知事が26日、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、県民に今週末は不要不急の外出を控えるよう要請するなど影響が広がる中、「感染弱者」の高齢者が生活する県内の施設にも深刻な影を落としている。施設側は外部からのウイルスの持ち込みを防ごうと、入居者への面会や外出の禁止、病院の受診を抑制するなどの対策に取り組む一方で、入居者の認知症が悪化する可能性や、基礎疾患を持つ高齢者の健康への影響も危惧されている。また、マスク不足や職員の負担も増大するなど、現場は対応の限界を訴えている。

 「入居者の9割が認知症。感染予防として、長期間家族と会う機会や外出を禁止すると、認知症の周辺症状が増幅するリスクも同時にある」。横浜市瀬谷区の特別養護老人ホーム「愛成苑」の施設長、平本千恵子さんは危機感をあらわにする。

 医療機関受診抑制

 同施設では、ショートステイを含めて60~90代と100歳超を含めた約100人が利用し、職員約80人が対応している。入居者の9割に認知症があり、「全員、何かしら薬を必要としていて、基礎疾患がある」(施設関係者)という。

 高齢者は感染すると死亡や重症化のリスクが高いとされ、同施設はウイルス侵入の防御策を徹底している。2月25日から入居者への面会や外出を禁止。職員が付き添うなどして施設のバルコニーやウッドデッキの散歩、体操などで対応している。

 一方で、平本さんは「縛りの強い生活が長期化することで、ストレスもたまる。高齢者の体調への影響は誰も分からない。対策は総合的に考えないといけない」と話す。

 また、少しでも感染リスクを下げようと、医療機関への受診も抑制している。体調不良の入居者がいる場合は、医療機関に電話で相談し、薬の処方や受診時期を調整している。受診について、女性看護職員は「急病であればやむを得ない」とするが、「ウイルスをもらってきてしまう怖さがある」という。予防対策を徹底する一方で、「タイムリーに適切な医療を受けられないという悪影響もある。今後どうなるか…」と不安は尽きない。

 切羽詰まった状態

 介護現場では、食事や入浴など職員と入所者が密接に関わることが多く“濃厚接触者”である職員たちの感染にも警戒を強めている。公共交通機関を利用する職員もおり、通勤時はマスク着用を周知。出勤した際に新しいマスクに交換し、検温して消毒も徹底している。ただ、職員や入居者の安全確保に欠かせないマスクは「1カ月で底をつきそう」(平本さん)というのが実態だ。

 同施設では、3月6日から「1人1日1枚」と制限している。「マスクが手に入らない状況。感染者がいないうえに、使用枚数に縛りをかけても、1カ月持つか持たないか」とし、すでに切羽詰まった状態だ。

 ゴム手袋やアルコール消毒液の在庫を確保することも難しく、清掃用に使用していたアルコール消毒液は次亜塩素酸水で代替している。入居者が感染した場合には、軽症であれば医療機関の判断に基づき、施設内の個室に隔離する予定だ。

 入室時にはその都度、介護職員は手袋やマスク、医療用のガウンを着用し、退室後に取り換える。食事や体調管理などで手厚いケアが必要となり、「感染者が発生することで、全ての備品が急激に減ることが予想されている」(女性看護職員)。施設内で感染者が出た場合には、集団感染の可能性もあり、「より多くのマスクなどを確保したい」(同)という思いとは裏腹に、安定的に備品を確保できるめどは立たない。

 ボランティア呼べず

 ウイルスへの不安が広がる中、施設職員への負担も増している。同施設には、毎日数人のボランティアが訪れていたが、家族の面会中止と同時に受け入れをやめている。音楽の演奏や皿洗いなどの作業を担っていたが、その分の負担は施設職員にのしかかっている。

 さらに、職員は現在、自宅に子供を残して時短勤務したり、友人に子供を預けたりして出勤している。別の施設で働く妻も時短勤務しているという男性職員は「4月に小中高が再開しても、感染拡大が続けばまたどうなるか分からない」と不安を募らせている。

 また、市から福祉施設などの職員に対し、感染を防ぐため、密閉された空間や集団で集まることを避けるよう徹底するように通知があり、平本さんは「職員のストレス発散の場がなくなってきている。職員のストレス発散の方法についても検討中だ」と頭を悩ませている。感染拡大の出口が見えない中、影響は広がる一方だ。

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