【オーダーブックで読み解く外為市場】火種は米中の関係悪化 米雇用統計やECB理事会の影響も要注意

2020.6.2 07:02

 先週の為替市場は引き続き米欧での経済活動再開や新型コロナウイルスに対する治療薬、ワクチン開発への期待感により、比較的楽観的な相場が続き、安全資産とされる円や米ドルが比較的弱い推移となりました。

 また、米中の関係悪化への懸念が強まっていましたが、週末に行われたトランプ米大統領の中国に関する記者会見が、警戒していたほど厳しい内容ではなかったこともあり、市場のリスク回避の動きも限定的なものとなりました。

 ただし、今週も、米中の関係悪化への火種は残っており、最新の報道により、市場の不安が高まる可能性に注意が必要となりそうです。

 新型コロナウイルス関連では、ポジティブな材料だけでなく、新興国における感染者数増加や、先進国の感染ペース再加速などネガティブな報道が出てくる可能性にも引き続き注意したいところです。

 経済指標は週末に米国で雇用統計の発表が予定されています。前月に続き、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、弱い結果となることが予想されますが、市場も想定済みのため、多少弱い結果となったとしても影響は限定的かもしれません。

 また、欧州では欧州中央銀行(ECB)理事会が予定されています。今回の会合では、追加緩和について議論されることが想定され、結果発表直後はユーロが不安定な動きとなる可能性が考えられるため、発表前後の動きには注意が必要です。

 均衡がいずれに崩れるかに注目

 では、世界中に顧客を持つ外国為替証拠金取引(FX)会社のOANDA(オアンダ)が提供するオーダーブックで外国為替市場の動向を探ってみましょう。

 オーダーブックはOANDAの顧客の取引状況を公開したデータです。顧客の保有しているポジションの取得価格の水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンポジション」と、顧客の未約定の注文の価格水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンオーダー」の2種類のデータから成ります。

 ちなみに、ある通貨を買っている状態を「買いポジション」、売っている状態を「売りポジション」といいます。買いポジションを保有している場合、その通貨の価格が取得価格から上昇したら収益が上がり、逆に下落すると損失が発生します。売りポジションを保有している場合は、取得価格から下落すると収益が上がり、上昇すると損失が発生します。FXでは、それぞれのポジションとは反対の売買を行って決済(損益の確定)をする仕組みとなっているからです。

 先週のドル円は引き続き、1米ドル=107円台を中心に方向感の鈍い推移となりました。週末には注目していたサポート水準の1米ドル=107円30銭付近を割り込む動きとなりましたが、その後は買い戻しが進み、1米ドル=107円台後半まで押し戻しています。

 OANDAのオープンポジションを見ると、1米ドル=107円台後半を中心に、107.05~108.10円付近で構築されたポジションが多く、107円台を価格が上下にしっかりと抜ける動きとなると、売買のいずれかのポジションが苦しくなり、損切り注文(損失の拡大を防ぐための決済取引)が増え、値動きに方向感が出てくる可能性を見出すことができそうです。

 よって今週は1米ドル=107.00-108.10円の価格レンジをいずれに抜けるかで方向感を探っていきたいところです。

 ユーロは上昇基調が続くかが焦点に

 先週のユーロドルは、1ユーロ=1.1米ドル台にしっかりと乗せる動きとなり、上昇基調が強まり、1ユーロ=1.115米ドル付近まで上昇する動きとなりました。

 OANDAのオープンポジションを見ると、上昇により、含み損を抱えた売りポジションが増えており、高値を切り上げる動きとなると、損切りの買い注文を絡めて、もう一段の上昇余地が残されているように見えます。

 また、下押しする動きとなった場合もこれらの売りポジションの損益分岐点に戻ってきたことによる安堵の買いが下支えとなる可能性も考えられ、底堅い推移が続く可能性を見出すことができそうです。

 ポンドドルも上昇余地あり

 先週のポンドドルは、底堅い動きが続き、1ポンド=1.23米ドル台に乗せる動きとなりました。

 OANDAのオープンポジションを見ると、底堅い動きが続いたことにより、含み損を抱えた売りポジションが多く、高値を切り上げる動きとなると、これらのポジションの損切りの買いが増えそうな気配となっており、上昇余地は残されているように見えます。

 一方で直近の伸び悩みでストレスを抱えた買いポジションも増えており、短期的にはこれらの買いポジションの決済により、上値が圧迫される可能性にも注意が必要となりそうです。

〈OANDAのオーダーブック〉

オープンポジションはここに注目

 相場を動かす要因の一つは損切り注文といっても過言ではありません。

 これ以上損失を増やしたくないトレーダーは保有しているポジションの反対売買を行い、損失を確定させ、市場から退出します。

 例えば、価格が下落する局面では、買いポジションの保有者が苦しくなり、損切り注文(決済の売り注文)が出やすくなり、下落圧力が強まる要因となります。

 損切り注文は価格の向かう方向と同じ方向へ力が加わる注文となるため、損切り注文が多くでる場面では、短期間に相場が大きく動きやすくなります。

 オープンポジションを見ると、どの水準に含み損を抱えたポジションが多いかを視覚的にチェックすることができ、次にどちらに動いた方が、価格の動きが大きくなりそうか(損切り注文が多く出そうか)を予想することができます。

オープンオーダーはここに注目

 前述の通り、損切り注文が増えると、一方向への力が強まるため、価格の動きが勢いづくことがあります。

 オープンオーダーを見ると、どの水準にどの程度の注文(オーダー)が入っているかを視覚的に素早くチェックすることができます。

 損切り注文が多く入っている水準に到達すると、価格が短期的にでも勢いづくことがあるため、注意が必要です。

世界中のトレーダーの相場分析のサマリー?

 トレーダーが損切り注文を入れる水準は、通常は、チャートで相場分析を行なった上で、「この水準を超えてしまったら、相場の流れが逆方向に向かう」と考えた水準に入れます。

 OANDAのオープンオーダーは、世界中のトレーダーが相場分析を行った結果のサマリーと言っても過言ではありません。

 これを見れば、世界中のトレーダーがどの水準に注目し、相場の転換点となると考えたかを簡単にチェックできます。

※逆指値注文:現在の水準よりも不利な水準を指定して行う注文。通常、損切り注文はこの逆指値注文を使います。

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OANDA Japan株式会社

第一種 金融商品取引業 関東財務局長 (金商) 第2137号

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OANDA FXラボ編集部

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OANDA Japan株式会社世界各国に拠点を持つFXブローカー

1995年に世界で初めてインターネットを利用した無料の外国為替レート情報の提供を開始したOANDAの日本法人。創業当初から、正確で透明性の高い優れた為替レートを提供するため万全のインフラを整え、取引環境の改善を行ってきた。現在では世界8カ国にオフィスを構え、そのサービスは世界中のトレーダーに利用されている。

【オーダーブックで読み解く外為市場】はOANDA FXラボ編集部が投資判断の参考として外国為替市場の動向を読み解く連載コラムです。更新は原則毎週火曜日。アーカイブはこちら

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