東京・世田谷の待機児童、全国最悪から一転「ゼロ」になった2つの要因

2020.6.10 20:09

 過去6回にわたり待機児相数が全国最多だった東京都世田谷区は、今年4月1日現在で一転して「ゼロ」を達成したと発表した。保育施設の整備などで定員を拡充し、国の定義に沿って待機児童の集計方法を見直したことなどが達成につながった。ただ、希望する園に入れなかったなどの「潜在的待機児童」は前年度比79人増の474人。区は希望通りの保育を実現する環境を整えるべく、さらなる対策を迫られている。(王美慧)

 定員802人確保

 人口約92万人で都内で最多の同区は、就学前人口の増加などから、平成25~29年に5年連続で待機児童が全国の区市町村でワースト1位を記録。1千人台が3年間続いた。昨年は470人で再び全国最多となったが、わずか1年で待機児童ゼロを成し遂げた。

 「快挙」の背景には、大きく2つの要因がある。

 一つは、同区が昨年度に保育施設の整備などで定員を増やしたことだ。施設は14カ所増えて324カ所に、定員は新たに802人分確保して2万462人分となった(4月1日現在)。

 同区は毎年数百~数千人規模で定員の拡充に取り組んできたが、25~28年の間は就学前児童が毎年約1千人ずつ増え、「保育園を作っても待機児童の解消に至らなかった」(担当者)。近年は就学前児童の増加ペースが落ち着き、「定員拡充が大きな効果をみせた」と胸を張る。

 育休延長目的除外

 もう一つの要因は、待機児童の数え方を変えたことだ。国の定義に応じて、区は今年の入園申請者から「育児休業延長を希望し、すぐに復職する意志がないケース」を確認し、待機児童から外した。

 通常1歳までの育休を最長2歳まで延長するには、入園申請をした上で、自治体から入園できなかった証明書をもらう必要がある。これまでは、育休延長を希望している保護者が入園を断られた場合も待機児童としていたが、入園希望の実需が見えづらく、正確な待機児童数を把握しにくい実態があった。

 毎年、延べ500人以上が入園内定後に辞退しており、区は育休取得目的で申請するケースを把握する必要があると判断。今年から育休延長の意向を確認した結果328人が希望し、選考順を一番下に変更した。

 欠員700人分超

 長年の懸案だった待機児童はゼロになったが、潜在的待機児童は474人(4月1日現在)と多い。

 この数字は、自宅から30分未満(2キロ以内)の保育施設に欠員があるのに、特定の園を希望するなどの理由で入園内定が得られなかった児童の数だが、国の定義で集計から外されている。これらの児童について、担当者は「ほとんどの児童が保育を受けられていないと見込まれる」と話した。

 保護者らが希望する保育施設は、自宅近くや通勤途中の園▽認可保育園▽保育料の安い園▽保育サービスが気に入った園-などだ。そうした保育ニーズとのミスマッチなどを理由に、区内の認可保育園などでは739人分の空きが生じている。昨年より172人分増え、主に認可外保育園で欠員が発生しているという。

 区内の待機児童の実態把握アンケートでは、希望する保育施設への入園ができていない保護者らから「認可保育園を増やしてほしい」「“保育園難民”がいつまでも続く」など、新規開設を望む切実な声が依然として多い。保坂展人区長は「引き続き保育施設整備に取り組んでいく必要がある」との認識を示す。

 区は今年度、保育施設が少ない世田谷地区と北沢地区などに約560人分の施設を整備する予定。また、入園申請者の多い1歳児の定員を増やす認証保育所への補助なども行う。既存施設も有効活用して、待機児童ゼロの継続に向けた施策を模索している。

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