【お金で損する人・得する人】頻発する水害リスクに備え 自動車保険の水災補償を見直そう

2020.7.8 07:00

 梅雨入りし大雨のニュースが増えてきました。直近では熊本県を中心に線状降水帯が発生し、豪雨により河川の氾濫が起こりました。水害により亡くなった方、避難中の大勢の方がいらっしゃいます。今回は、災害からの復旧に役立つ保険について、水災補償という視点でお伝えいたします。

 洪水、内水、高潮、土砂災害の懸念

 近年、全国各地で50年に一度、100年に一度、1000年に一度などと表現される豪雨により、河川が氾濫し周辺が冠水。日常生活を送ることができなくなった人たちも毎年かなりの人数になります。

 まずは政府からどのような認識が私たちに共有されているかを確認しましょう。

 環境省の「STOP THE 温暖化2017」では、世界中で異常気象が観測されているとあります。強い台風、ハリケーン、集中豪雨、干ばつ、熱波が多数の死者を出し、農作物に甚大な被害をもたらしているとあります。

 日本では、気温の上昇が続き猛暑日も増加、海面水温が上昇し、大雨となる日数が増加しています。冊子発行の時点で、日本は将来暑くなり、強い雨の回数が増え、暑い日が増えるとあります。特に水害関連に限定すると、洪水、内水、高潮、土砂災害が懸念されています。日本では一年間に平均して1,000件以上の土砂災害が発生しており(平成18~27年度)、発生場所は都道府県を問いません。

 最近では、一部地域で斜面崩落が発生していますが、豪雨に起因する斜面崩落が増えることも指摘されています。

 環境省の刊行物だけでなく、各省庁は地球温暖化に伴う環境変化により、日本では水害が増えることが再三再四指摘されています。

 危ないと指摘されても簡単に住まいを替える人は多くありませんから、地球環境の変化が起こっても、すぐ住み替えするという意思決定には結びつきません。本来は、官庁や地方自治体などの行政機関が速やかに環境変化に伴う行政計画を制定し、住環境に関する規制や移動勧告を実施することが望まれます。

 しかし、住宅ローンを抱えていれば簡単に引っ越すわけにも行きません。高齢者であれば引っ越しも大変で現実的ではありません。学区を変えたくない子育て世帯もいるでしょう。簡単に住居を移すことのできる人は数えるほどかもしれません。

 半分以上が車両保険に未加入

 水害の被害を受ける財産は、不動産である自宅と動産と称される財産として自動車があります。今回は、年に一度契約の更新が必要な自動車保険について考えます。

 一般財団法人 自動車検査登録情報協会によると、日本で登録されている自動車は8,231万台(令和2年1月末時点)。業務用の自動車もありますが、3人に2台の割合で自動車がある計算です。

 一部の地域を除けば自動車が生活必需品になっている地域は日本全国にあり、自動車がないと生活できないという方も多いでしょう。

 ただ、マイカーが水没するということを想像したうえで自動車保険に加入する人は少ないでしょう。損害保険料率算出機構によると平成31年3月末時点で自動車保険に加入している自動車は74.8%となり、4台中3台は自動車保険が掛けられています。しかし、水没の際に保険金が支払われる可能性のある車両保険については、45.1%となっており、自動車の半分以上は車両保険がかけられていません。

 実は、自動車保険は車両保険をつけるかどうかで保険料が大きく変わります。車両保険は事故や自損事故でマイカーが破損したときに修理するための保険だと認知されているようです。車両保険は支払い条件が契約時に選択できるようになっており、大きく分けると自損事故を含めるか、接触事故等に補償を限定するかとなっています。気になるのは、火災保険に類する補償である火災、爆発、台風、洪水などが補償されることの認知が低い点です。

 自動車保険料を安くする方法

 一方で、自動車保険料を抑える視点(節約)でみると、車両保険を付けない方が保険料は下がりますので、自動車に乗っているけど事故を起こしたことがない人は、車両保険という特約自体が無駄に感じられることでしょう。

 他にも、自動車保険料を安くする方法はいくつかあります。前述の車両保険の支払い対象を限定すること以外には、保険金受取時の免責金額を設定することも効果があります。免責金額は、保険会社が支払う金額を一部減らすという意味になります。自己負担額を設定するということと同じです。

 例えば、車両保険金額が100万円、免責金額が10万円の場合を考えます。今回の例で考えると、自動車が水没して全損となった場合には、保険会社は100万円の損害を認めます。ただし、免責金額が10万円設定してあるため、実際の受け取り保険金額は、車両保険金額100万円-免責金額10万円=90万円となります。免責金額を多くすれば、いざというときの自己負担が増え、免責金額を0円に近づければ保険金受取時の自己負担は0円に近づきます。

 自動車の経年劣化に注意

 気を付けたいのは経年劣化です。自動車は経年劣化するため、車両保険の金額は更新するたびに引き下げられます。例えば新車の価格が100万円であったとしても、5年後に自動車の価値が50万円となれば車両保険の契約金額が50万円になるということ。常に時価で評価されるため、10年目の自動車であれば車両保険金額は10万円程度あるいは0円に下がる可能性もあります。

 このような点は保険会社が保険商品を改訂しなければ是正されませんから簡単に変わることもないでしょう。しかし、今後は車両保険金額を新車納入時点の価格を維持するような商品が求められる可能性もあります。その場合は当然保険料も高くなりますし、保険金詐欺も増える可能性があります。ですから、事故の際は時価を支払い、災害の時は再調達価格(新車価格)で支払うような商品設計にすれば、古い自動車をわざと破損させて車両保険を受け取るような保険詐欺的なモラルリスクはある程度回避できるものと思います。

 自動車保険は毎年更新する設定の契約が多いので、毎年の水害状況だけでなく、他の災害の被害を見極めながら適宜保険を見直すことをお勧めいたします。

 なお、車両保険では、地震、噴火、津波の被害が補償されませんので、補償に加えたい場合、別途特約を付帯する必要があります。

 水害について、我が家は関係ないと思う人もいるでしょう。ただ、たまたま自動車運転中に水たまりに侵入し、冠水するというケースはそれなりに見かける自動車全損のパターンでもあります。自己判断よりも、まずは契約に付帯させるという意識も必要でしょう。

 今後は、自動車を保有すること自体が金銭的に負担になると感じる人もでてくるでしょう。レンタカーやカーシェアであれば、水害リスクを考える必要はありません。今後、自動運転が安全に提供されるようになれば、自動車が無いと生活が成り立たない人も、マイカー保有に伴う経済的リスクを保有することなく、自動車を利用することも可能です。

 車両保険は運転中にマイカーをぶつけるか否かではなく、自動車水没などの被害を受けた際に、いかに自己負担なく生活を再建できるかを念頭に、契約を検討されることをお勧めいたします。

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高橋成壽(たかはし・なるひさ)

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ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役

1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら

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