【コロナ その時、】(9)2020年5月1日~5月10日 不満、野心、ハッシュタグ

2021.1.5 06:01

 緊急宣言延長、たまるストレス

 2020年5月に入っても、国内の新型コロナウイルス感染に対する医療体制にまだ余裕は生まれていなかった。全国を対象とする緊急事態宣言の当初の期限は6日だったが、政府は31日までの延長を4日に決定した。

 安倍晋三首相は4日の記者会見で「責任を痛感している」と陳謝し、「コロナの時代の新たな日常を一日も早くつくり上げなければならない」と呼び掛けた。政府の専門家会議は同日、「食事は横並びで」「買い物は通販も利用」などを推奨する「新しい生活様式」を提言。東京や大阪など13の特定警戒都道府県では、人との接触機会の8割削減が引き続き求められた。

 大型連休中、人出は東京や大阪の主要駅で前年より7~8割も減少したところが目立った。観光地は閑古鳥が鳴き、事業者から「廃業もあり得る」と悲鳴が上がった。人々は長引く自粛でストレスがたまっていった。

 連休明けの7日、厚生労働省は治療薬として「レムデシビル」を特例承認した。一部の自治体では「出口」戦略を模索し始め、大阪府は8日、事業者への休業要請を段階的に解除するための独自基準「大阪モデル」の運用を始めた。

 「新日常」の掛け声 不満の矛先、政権へ/#検察庁法改正案に抗議します

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の期限が大型連休最終日(5月6日)に迫るなか、政府は悩んでいた。宣言を継続すれば経済面の傷口は広がるが、国内の感染者数は4日に1万5000人を突破していた。

 感染抑制か経済再生か。あるいは、その両立が可能なのか-。ジレンマのなか、政府は結局31日まで宣言を継続すると決めた。

 安倍晋三首相は直前、周囲にこう打ち明けた。「途中で再評価しよう」。緊急事態宣言は継続するが、感染者の増減を見極めながら、流行をほぼ収束できたと判断できれば、新たな期限の31日より前でも宣言を解除すると腹を決めた。

 ただ、政府は重点対策が必要な「特定警戒都道府県」以外の34県で、居酒屋やレストランなどの営業自粛要請の緩和を認めた。

 国民に一律10万円を支給する特別定額給付金のオンライン申請が1日に始まったが、申請に必要なマイナンバーカードの手続きで市区町村の窓口に住民が殺到。マイナンバーカードのシステムにも不具合が発生し、皮肉にも役所で3密(密閉、密集、密接)が多発する事態を招いた。

 家計不安の迅速な解消をうたった政策の不手際と、長引く自粛生活で積もった国民の鬱憤。その矛先は安倍政権に向けられる現象が起きていた。

 「#検察庁法改正案に抗議します」。国会で審議中だった検察官の定年を延長する法案に反対するツイッターのハッシュタグ(#、検索目印)が10日、トレンドワード入りした。女優の小泉今日子さんら本人とみられる著名人の投稿もあり、ツイートは瞬く間に拡散した。

 国民の不満は、あろうことか医療現場で懸命に働く医療従事者にまで向けられた。神戸市立医療センター中央市民病院は9日、勤務する看護師やその家族が誹謗中傷される被害があったことを明らかにした。

 4日には大相撲夏場所の中止も決定。日常の娯楽が奪われ続けるなか、「巣ごもり」生活を楽しむための商品にスポットライトが当たった。任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」とソフト「あつまれ どうぶつの森」が品薄となり、同社の業績を押し上げた。

 感染のピークが過ぎた中国がこのころまた領土的野心をあらわにしていた。8~10日に中国海警局の船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海に侵入し、日本漁船を追尾した。

 世界では感染の再拡大を恐れつつも経済活動や社会生活の再開に動き始める地域が出始めていた。中国は2日、感染の震源地となった武漢市を含む湖北省でウイルスに関する警戒レベルを最高水準の「1級」から「2級」に1段階引き下げた。イタリアでも4日、全土で3月10日から続いていた都市封鎖が緩和された。

 全米では毎日2万~3万人の感染者数の増加が続いていたが、経済活動再開を強調するトランプ大統領は5日、国内視察を再開し、西部アリゾナ州の医療用マスク生産工場をマスクなしで訪れた。

 連休明けの7日の国内の新規感染者は96人で、3月30日以来ようやく100人を切った。緊急事態宣言の延長は決まったが、景気が低迷するなか、経済活動の早期の再開を求める声が徐々に高まっていく。(次回(10)は明日1月6日に掲載します)

【自粛警察】 国や都道府県が休業や外出自粛を求めたとき、これに従っていないとして、他者を糾弾し自粛を強いるような行為や風潮を指して「自粛警察」と呼ばれた。

 飲食店に休業を要求する張り紙をしたり、遠方の都道府県のナンバープレートの車に嫌がらせをしたりする行為が問題になった。匿名の場合がほとんどで、事実誤認のケースも目立った。マスクをしていない人を過剰にとがめる「マスク警察」、店員でもないのに店舗の入り口で他の客に消毒を促す「消毒警察」といった言葉も話題に上った。

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