現場逼迫、「医療崩壊」現実味 日本の医療課題が新型コロナで噴出

2021.1.14 06:02

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言が再発令された首都圏1都3県で医療現場の逼迫(ひっぱく)が深刻化し、東京都では確保病床を上回る勢いで入院患者の増加が続いている。欧米より感染者数が極端に少ない日本で「医療崩壊」が現実味を帯びているのはなぜか。背景には、コロナ専用病床を簡単に増やせない日本の医療体制が抱える問題点が横たわっている。

 「重症患者をこれ以上診るなら、通常医療だけでなく救急医療を止めるのに等しく、医療崩壊につながる」。公立昭和病院(東京都小平市)の上西紀夫(かみにし・みちお)院長はこう危機感を示す。

 都は重症250床、軽症・中等症3750床の計4000床の病床を確保。感染症指定医療機関の同病院は重症6床、軽症・中等症35床が割り振られている。次の最終局面では重症用を都全体で500床、同病院でも12床を確保する計画だが、都の担当者も昨年末、上西院長に対し、非現実的との見方を示したという。

 ただ都内の12日時点の入院患者は3427人で、病床使用率86%。うち重症患者は144人で、1カ月前から倍増。人工呼吸器や人工心肺装置(ECMO)が間もなく必要になるなど重症に準ずる患者が100人以上控えている。

 上西院長は「病床は多いのに、医師や看護師が少ない。診療科の偏在も含め日本の医療体制の問題点がコロナで一気に噴き出した」と指摘する。

 経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の病床数(人口1000人当たり)は13・0床で、37カ国中1位である一方、医師数(同)と看護師数(同)はいずれもOECD平均を下回る。その上、医療機関数が約8300と多く、スタッフが中小規模の病院に分散している難点がある。

 こうした環境下で、6日時点のコロナ用の確保病床数は全国計2万7650床で、救急医療や手術に対応する急性期病床約73万床の4%程度。東京都に限れば6%程度にすぎない。

 「コロナ医療を行う病院とそれ以外で二極化している」と話すのは、埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)総合診療内科・感染症科の岡秀昭部長。川越市周辺の医療圏で、コロナ病床を備えるのは同センターのみ。岡氏は「看取りや終末期医療が目的のコロナ患者は、一般の民間病院でも診るなど地域の役割分担は必要」と訴える。

 厚生労働省によると、昨年9月時点で、コロナ患者を受け入れ可能な医療機関は全体の23%。医療機関全体の7割を占める民間病院が18%にとどまることが足かせになっている。病床数が少ないほど患者を受け入れていない傾向もある。

 民間側も受け入れによる院内感染や風評被害の懸念に加え、患者減少に伴う経営難という事情を抱える。日本医師会の中川俊男会長は「診療所も含め面として地域の医療提供体制を支えている」と理解を求める。

 東京都では2月上旬にも入院患者が確保病床を上回る恐れがあり、都立・公社病院で600床増床することで乗り切りたい意向。担当者は「一般診療を抑制するなどコロナ優先のシフトになる。民間病院への依頼は最終手段」としている。

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