【お金で損する人・得する人】実家の不動産相続 3年以内に所有者変更しないと「10万円の罰金」へ

2021.3.10 06:00

 法務省の有識者会議である法制審議会(令和3年2月10日開催)において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が全会一致で可決されました。今後は閣議決定、法案提出、法改正の審議などが予定されます。従来との大きな変更点は、不動産を相続で取得した相続人による所有者の名義変更が義務化されたことです。

 今までは、親が亡くなっても税金さえ支払っていれば、所有者の名義を変更する必要はありませんでした。日本には先祖が所有者のままになっている不動産がたくさんあります。これからは、所有者変更をしなければ罰金が課されることになるのです。自分には関係ない、とは言い切れません。

■一般的な相続手続きの流れ

 相続手続きは、人が亡くなった時点から始まります。

(1)亡くなった人(被相続人)の財産の一覧表(財産目録)を作成

(2)財産的価値を計算し、財産の総額を算出(課税価格の算出)

(3)遺言があれば所定の手順を踏んで遺産分割を実施。以下(4)は割愛する。

(4)誰が何をどれだけ相続するかを遺族が話し合いまとまった結果を書類に残します。(遺産分割協議書の作成)

(5)遺言や遺産分割協議書に従い、財産を引き継ぎます。預金、証券は解約し、不動産については引き継いだ人の名義に書き換えます。(遺産分割の実施)生命保険金は遺産分割前であっても保険金請求することが可能です。

(1)財産目録は故人が生前にまとめて作成しておくと家族の手間が省けますし、抜け漏れの可能性が減るでしょう。故人が遺言を作成したり、エンディングノートを作成している場合は、既に一覧が作成されているでしょう。財産目録がない場合は、通帳を探して銀行口座、証券口座、保険契約などを探し出す必要があります。この目録作成が遺族の最初の手間となります。証券と保険は金融機関から定期的に書類がとどきますので抜け漏れの可能性は低いです。銀行や郵便局は口座の残高をお知らせする機能はありませんので、口座を発見できないこともありえます。

(2)課税価格の算出は、銀行、証券、保険は容易ですが、土地や建物などの不動産、自動車などの動産は評価が難しいかもしれません。計算の仕方は税務署に相談するといいでしょう。相続税がかかることが事前に確認できている場合は、相続税の申告を前提に税理士に計算を依頼するとよいでしょう。注意すべき点は、配偶者が相続財産1.6億円まで相続税が非課税になるなど適用対象の人でも、相続税の申告が必要なことです。相続税の申告手続きを実施することを条件に、相続税を免除するという設定になっていますから、申告をしないと相続税を免れることはできません。

(3)遺言には種類があります。自筆証書遺言の場合は検認が必要ですので、裁判所で検認手続きを実施します。公正証書遺言の場合は、検認不要ですので、相続人間で内容を共有するといいでしょう。

(4)遺産分割協議書の作成が、相続手続きのなかでも難しい工程です。相続する人が0人であれば、故人の財産は国の所有になります。相続する人が1人であれば意見を聞く相手がいませんので、財産はすべて引き継ぐことができます。相続人が2人以上いる場合は、話し合いが必要です。遺産分割の難しい点は、誰かが得をすることで、他の誰かが損をするという構造にあることです。損得を気にしない人だけであれば、スムーズに遺産を分けられるのですが、お金の損得以外に感情面での損得が発生するため、話し合いがまとまらない場合があります。家族で話し合いがまとまらない場合は、専門家に交通整理を依頼するのがいいでしょう。最悪のケースですと争いが始まり、弁護士が間に入って家族間で連絡ができなくなります。

(5)遺産分割の実施は、遺言か遺産分割協議書の通りに行います。金融機関や法務局など、指示に従い、求められた書類を提出すると解約や名義の書き換えが完了します。遺産分割は遺言が最優先となります。遺言があったとしても相続人の全員が承諾すれば、遺産分割協議による財産分けも可能です。相続では遺言なしのケースが多いため、通常は話し合いの実施と遺産分割協議書の作成が必要となります。遺言があっても、遺留分相当を受け取りたい意向の相続人がいる場合は、遺留分侵害額請求という手続きで遺留分相当額を相続することも可能です。

■期限が決まっている手続き、期限のない手続き

 相続手続きにおいて期限が決まっているものは、(1)相続するかどうかの意思決定、(2)納税期限、となります。

 相続するかどうかの意思決定は、相続開始後3ヶ月以内に行います。何もしなければ単純承認といって、金融資産、不動産、借金など条件をつけずに全財産を相続することになります。故人が会社を経営しているなど、会社の借金の連帯保証人になっている場合は、相続放棄を検討する場合もあります。借金額が明確な場合は、プラスの財産の範囲内で借金も背負う限定承認という方法もあります。昨年来、コロナの影響で遺産分割が円滑に実施できない事態もありますので、3ヶ月を超えても相続放棄や限定承認が認められる可能性もありそうです。

 納税期限は、所得税と相続税の申告と税金の納付が必要です。所得税は準確定申告といって、亡くなってから4ヶ月以内に個人の所得税を申告納税します。相続税は亡くなってから10ヶ月以内に申告納税します。所得税は、生前の収入ですから、公的年金、個人年金、給料、不動産収入、投資収益などがあります。相続税は生前に蓄えたり、代々引き継いできた金融資産と不動産が対象です。財産をどのように分けたかにより、遺族の納税額が変化します。

■罰金10万円を払うケース

 法制審議会の案によると、不動産の名義変更を怠った場合は、10万円以下の過料とあります。期限と罰則が明確になったことで、行政側も躊躇なく過料を課すことができます。罰金の支払いが嫌な人は相続しないという選択と、相続後売却するという選択となります。売却したくても値段がつかなかったり、買い手が存在しない不動産もあります。そのような不動産は、国に引き取ってもらえる可能性があります。更地であることが条件のため、山林等は対象にならないと考えられます。費用としては管理費用の10年分を納付することで所有権を国に移すことが可能です。

■これからの相続の注意点

 不動産の名義変更に罰則が設けられることで、家族がいる人のほとんどが対象になります。筆者自身が以前の相続で、名義変更ができていなかった田舎の土地があり、急遽相続手続きを実施することになりました。数十年前の相続のため途中の相続人もなくなり、孫やひ孫の世代が引き継ぐことになりました。相続人が非常に増えており、まとめることになった相続人の一人は大変だったろうと思います。

 今まで名義変更をしなくても利用には問題ありませんでした。これからは、放ったらかしには罰金があると理解し、速やかに名義変更を実施する必要があります。人によっては相続争いなど時間を浪費している場合ではないこともありえます。あなたの実家を相続する際は、忘れないように手続きを済ませましょう。故人と疎遠な方も要注意と言えるでしょう。

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高橋成壽(たかはし・なるひさ)

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ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役

1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら

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