【5時から作家塾】購入ピークは真夏! 様変わりするランドセル市場

2021.8.17 06:00

 なぜ、この暑い時期にランドセルの話題? と不思議に思うかもしれない。実はランドセル商戦のピークは、真夏なのである。最近は「ラン活」と呼ばれ、ランドセルの購入時期は年を追うごとに早まっているのだ。

 業界団体のランドセル工業会の調査によると、購入時期は8月がトップ。次いで6月、5月となっている。価格は上昇を続け、今年の平均は5万5339円。2010年の平均価格が3万5400円だったので、この10年で1.5倍にもなったわけだ。ちなみに今年は20万円近い商品も登場して市場を賑わせている。

 こうした過熱の背景には、近年の少子化がある。子どもが減ったため、一人に費やす教育費が増加し、高額商品を購入する家庭が増えているのだ。

 さらに、手作り志向も関係している。工場で大量に生産される品ではなく、アトリエで職人が手作業で仕上げる、いわゆる「工房系」のランドセルに人気が高まっているのだ。中には入手が難しい「レアもの」もあり、それを確保しようと、ランドセルの購入時期が早まったのである。

 人気を集める手作りランドセル

 いま、どういう状況になっているのか、ランドセルメーカーの一つ、土屋鞄製造所に取材を行った。皮革製品メーカーとして60年近い歴史を持つ同社は、オリジナルブランドの手作りランドセルが大きな人気を集めている。

 「ランドセル業界では、5、6年前から販売の早期化が始まり、現在は5月の連休が商戦のピークになっています。当社は、それに先駆けて3月から販売を始めています。以前は他のメーカーに比べると販売開始は遅かったのですが、良い品物を選びたいというお客様の要望が数多くありましたので、時期を早めました」(株式会社土屋鞄製造所 ランドセル事業部長 中橋竜矢さん。以下同)

 なんと、1年前からランドセルを選ぶ! 入学前の3月頃に買うものだと思っていた筆者には驚きだった。

 現在同社は、2022年度用のランドセルを61種類製造・販売している。

 「ランドセルは、男子は=黒、女子=赤というイメージがありましたが、最近はジェンダーレス化が進んでいます。性別に関係なく気に入った色を選ぶ方が増えていますので、当社でも約50種類の色を用意しています。人気が高いのは、グレーやラベンダー(薄紫)、茶色やキャメル、ピンク系です」

 ジェンダーレスの傾向は市場全体に広まっており、ランドセルの色にも時代が反映されているようだ。

 気になる価格だが、土屋鞄では6万4000円から14万円まで揃っており、7万から8万円台の製品が多く売れているとのこと。なかなかのお値段だが、人気の理由はどこにあるのだろうか。

 「ランドセルの製造は、すべて手作業で行っています。パーツごとの分業制(革の仕入れや裁断、縫製、仕上げなど)になっており、一つを完成させるのに約1カ月かかります。手作業でしかできない耐久性、美しさを追求しているためで、大手メーカーに比べると生産数が少ないのですが、お客様からは好評を得ています」

 ちなみに同社のランドセルは6年間保証が付いており、修理が必要な場合は、一部のケースを除き無料で対応している。

 コロナ禍で変化した「ラン活」にも積極的に対応

 このように盛況な「ラン活」だが、いま変化が現れている。コロナ禍で外出が難しくなり、店舗で試着する機会が減ってしまった。そこで始まったのが、新たなサービス。意外なことにこれが人気を集めているのだ。

 どんなサービスがあるかというと、例えば、子どもの写真をアップすれば、ランドセルの試着イメージが分かるアプリ。ネット上にバーチャル店舗を開設し、商品情報を提供する大手販売店などさまざまだ。

 そんな中、土屋鞄では今年3月、レンタルサービスを開始した。ランドセルを2泊3日で貸し出し、自宅で試着してもらう試みである。

 「以前は店舗で試着した上で購入いただきましたが、それができなくなったため、急遽始めました。弊社は全国に11の店舗を構えていますが、店のない地域もたくさんあります。そういったエリアのお客様からレンタルの注文が相次ぎ、結果的に販路が広げることができたのです。これは意外な結果でした」

 同社では、使い終わったランドセルをさまざまなアイテムにリメイクするサービスも行っている。思い出のランドセルを大切に残したい。そういうニーズは年々増えているという。

 「リメイクサービスは、職人がランドセルの状態を見て判断しますので、手間のかかる作業です。年間に4回注文を受けていますが、今年7月の受付では、初日に全5製品のうち3製品が完売してしまうほどの人気でした。『ランドセルは小学校6年間の相棒でした』。小学生や保護者の皆さんから、そんなうれしいお手紙をいただくこともあり、大変励みになっています」

 教育現場が変わりつつある今。ランドセルはこれからどうなっていくのだろうか。中橋さんに聞いてみた。

 「近い将来、小学校の教科書が紙からデジタルになっていくでしょう。そうなると、ランドセルに入れる持ち物も変わります。スマホやタブレットが必須になるかもしれません。たとえ形や用途が変わっても、常にお子さんが便利に使えるランドセルを提供していきたいと考えています」(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

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5時から作家塾(R)

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編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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