「序文」でも記したが、京都に住まない人にとって、その街はなぜかいつも特別な場所だった。そして、旅行などで訪れたひと時だけ、京都を部分的にかじる。もちろん、そんな観光もいい。けれど、せっかく京を訪れ、実際の鴨川の土手に座るだけでも、あなたは京都の「縦糸」を手にしていることになる。そして、京都についての本を読むことは「横糸」の役割を果たすと僕は思うのだ。碁盤の目のようなこのまちには幾つもの横糸があり、それを頼りにすれば京都に住まない者にだって、一枚の織物をつくれる気がする。誰かの記憶や物語から、自身の京都を編み込んでいくということは、存外愉快な旅のやり方だと僕は思うのだ。(ブックディレクター 幅允孝(はば・よしたか)/SANKEI EXPRESS)
■はば・よしたか BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。『本なんて読まなくたっていいのだけれど』(晶文社)、12月16日刊行予定。