この場所ならでは
次に気をつけたのが、この動物園の磁場を大切にすること。つまり、京都市動物園ならではの本とは何か?ということを、企画中ずっと僕は考えていた。岩合光昭の動物写真は誰もが喜ぶだろうし、ミロコマチコの絵本もすてきだ。手に取りやすく愉しい動物本はたくさんある。けれど、京都の動物園だからこそ手に取りたくなる本とは何なのか?
今回注目したのは、京都市動物園で写生をした絵描きたちの足跡だ。明治以降の京都画壇はじつに多くの画家たちを輩出してきた。彼らは円山四条派を中心とした近世の伝統を受け継ぎながら、西洋の技法も取り入れ、独特の世界観を形づくった。なかでも幸野楳嶺(こうの・ばいれい)門下で「楳嶺四天王」の筆頭と呼ばれる竹内栖鳳(せいほう)はじつに見事な動物の絵を何枚も描いたことで知られている。