触れた瞬間、動き出す小さな世界 東京 スノードーム美術館

2013.12.19 11:05

 【Room’s】

 透き通った小さな球体の中は、ミニチュアの街並み。そっと持ち上げ、上下に振れば、小さな街並みに、ちらちらと雪が舞う。ローマ、バルセロナ…ひと球ごとに、異世界が詰まった「スノードーム」は、ぼんやり眺めて楽しむインテリア雑貨だ。12月に入り、雑貨屋には、もみの木や雪だるま、サンタクロースなどのミニチュア人形が入ったスノードームが並ぶ。もうすぐクリスマス。東京・世田谷にある「スノードーム美術館」で、ひととき小宇宙を旅してみた。

 スノードーム美術館は、廃校となった中学校舎を活用した「IID 世田谷ものづくり学校」の一室にある。美術館の扉を開けると、ミュージアムショップの棚という棚いっぱいに、何百というスノードームが並んでいた。ニコリと笑顔の雪だるま、トナカイが引くソリに乗ったサンタクロース、もみの木、天使…メーンの陳列台には、クリスマスをイメージした、大小さまざまなスノードームの数々。「スノードームは普通の置き物と違います。見る人や持ち主が、さわって動かしたとたん“時間”を生み出す、そこが魅力の一つなんです」。

 この美術館やショップを運営するNPO法人「日本スノードーム協会」の中村賢英(まさひで)さん(56)はそう言って、オーストリアの老舗、ペルツィ社のスノードームを両手で揺らした。すると、球の中で粉雪がゆったりと舞いはじめた。1秒、1秒…ドームの中ではゆっくりと時が流れるかに見えて、眺めるうちに穏やかな心持ちになっていった。

 1900年創業のペルツィ社は今もウィーンの工房で手作業による色付けを続け、ドームの中の人形には素朴な味わいがある。手作業ゆえか、同じモチーフでも、顔の造形や色合いが一つ一つ異なる。球を満たすのがアルプス山脈の雪解け水というのも、ロマンチックだ。

 各国へ広がり独自に変化

 そもそもスノードームは、1800年代初頭のフランスで、ペーパーウエートの一種として誕生。上流階級が愛用し、1878年のパリ万博にも出品された。19世紀後半以降、欧州各地でスノードームの家内工業生産が広がると、20世紀初頭には北米に輸出され、米、カナダでも人気メーカーが育った。

 欧州・ペルツィ社が昔ながらの素朴なデザインを持ち味とするなら、北米メーカーのスノードームは、オルゴールや電飾が仕込まれるなど、エンターテインメント性を重視したものが目立つ。

 サンフランシスコ・ミュージックボックス社(米国)の「ガラスのスターツリー」はスイッチを入れると、明かりがともり、ネジを巻くと内蔵のオルゴールがクリスマスソング「もみの木」を奏でる。「電子音があふれるなか、オルゴールのアナログな音ならではの味わいが楽しめます」と中村さん。

 また、写真をドームの中に入れて写真立て代わりになるものもある。「メルヘンチックな夢の世界、思い出のタイムカプセル…スノードームに詰まっているのは、水や人形だけじゃないんです」。写真入りタイプは、結婚や出産など記念日のプレゼントによさそうだ。

 手作りで思い込めて

 この「思い出のタイムカプセル」に、さらに心を込めるなら、手作りがおすすめ。美術館では毎週末、参加費3700円でスノードームワークショップを行っている。

 先月(11月)24日、スノードーム美術館で開かれた教室には、20~30代の女性6人が参加。半球型のドームを使って、オリジナルのスノードーム作りを楽しんだ。

 レース模様のリボン、さまざまな色や柄の小さな布、ラメが輝く雪結晶型や、サンタやジュエリーなどをかたどったシール…作業机の上に、ファンシーな手芸小物が多数、並んだ。

 工作用のドームには、中央部に半円型の防水空間があり、そこにフィギュアや、布やリボンで飾り付けした台紙などを入れ、オリジナルの世界観を作る。ミニチュアの舞台美術を作るような気分だ。

 開始から2時間後、「産まれてくる子供のために作りました」と埼玉県朝霞市の主婦、賀谷尚子さん(28)が完成させたスノードームは、パステルカラーでメルヘンの世界。

 寒い冬に心温める、うってつけの贈り物。きっと部屋の片隅で、新しい家族のだんらんを見守るのだろう。(津川綾子、写真も/SANKEI EXPRESS)

スノードーム美術館

東京都世田谷区池尻2の4の5、世田谷ものづくり学校内109 (電)03・5433・0081。月曜休(23日、1月13日は開館)。年末年始は30日~1月6日休。開館時間は午前11時~午後5時。

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