「捨て犬」テーマに命の重み訴える

2013.12.25 16:30

 国内では年間約17万頭もの犬や猫が保健所に引き取られ、殺処分されていることをご存じだろうか。そのとてつもなく大きな数字をまずは頭に入れてもらい、飼い主のあるべき姿や、軽んじられがちな命の大切さを考えるきっかけになれば-との願いを込めて制作された映画「ノー・ヴォイス」(古新舜監督)が、東京・オーディトリウム渋谷で公開中だ。

 お粗末で無責任な飼い主

 本作は、ドラマ編(70分)とドキュメンタリー編(30分)の2部構成。ドラマ編では、毎日を漠然と怠惰に過ごし、職場の保健所でも責任感のかけらもない態度を取る青年、神楽鉄(市瀬秀和)が捨て犬と出合い、少しずつ生きることは何かを考え、人間として成長していく姿に、カメラは優しいまなざしを向けている。ドキュメンタリー編は、動物愛護に取り組む人々の姿が紹介されている。

 鉄と同様、やりがいを感じない仕事をこなしながら漫然と日々を送る同僚を演じたのが大蔵淳子(28)。福岡の実家では毛がふさふさとしてモップのような風貌のシーズー犬と仲良く暮らし、仕事で上京後の現在も猫を飼う「大の動物好き」だけに、本作に出演するまで「わざわざ保健所へ大切に飼っていた犬や猫を捨てにいく飼い主たちがいるという事実を知って、とても驚きました。ましてやそんな犬や猫が殺処分されているなんて知りませんでした」と、ため息混じりに語った。

 役作りも含めて、自分なりに保健所にいる犬や猫の現状をインターネットなどで調べてみると、命を命とも思わないお粗末で無責任な飼い主たちの実例を知るところとなった。「例えば飼い主が『引っ越しするから』とまったく自分の都合で保健所にペットを連れてくるケース。ペットは健康そのものですが、飼い主たちは半ば押しつけるようにして、『あとはどうでもいいや』と、そのままいなくなってしまうこともあるそうです」。撮影の前日に、舞台となった動物の収容施設に生まれたばかりの子犬が捨てられていたこともあった。

 「生きる姿勢を問う映画」

 飼い主たちがペットの命を軽視する姿勢は、1年間に3万人前後の自殺者を出す日本人の素地になっているとも思えてきて、嫌な気持ちになった。だが大蔵は「だからこそ、この映画を見てもらえたらなと感じています。ペットたちがテーマとなった映画ではあるけれど、実は私たちの生きる姿勢が問われているとも思うのです」と力を込めた。2013年12月21日には撮影風景や出演者たちのコメントを盛り込んだ全編61分のメーキングDVDも発売された。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:小野淳一/SANKEI EXPRESS)

 ■おおくら・じゅんこ 1985年7月3日、福岡県生まれ。主な映画出演作は、2003年「美少女探偵団~飛鳥からの風~」、05年「心の扉」、07年「コーラスたい♪ 彼女たちのキセキ」、11年「仮縫い」など。テレビドラマでは、04年「新・いのちの現場から」(TBS系)など。オリジナルビデオでは、04年「稲川淳二 あなたの隣にある恐い話」など。

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