プーチン氏 「テロリスト全滅」宣言 ソチ五輪目前 国の威信かけ、厳戒態勢

2014.1.9 09:00

 開幕まで1カ月を切ったソチ冬季五輪を前にテロの脅威が現実味を増している。昨年(2013年)末、ロシア南部ボルゴグラードで起きた連日の爆破テロで緊迫度が一気に上昇した。ソチに隣接するロシア南部・北カフカス地域の武装勢力による五輪妨害の予告もあり、ウラジーミル・プーチン大統領(61)は「テロリストを全滅させる」と宣言。国家の威信をかけ、異例の厳戒態勢で臨む五輪の成否はテロの封じ込めにかかっている。

 司令官、開催阻止呼び掛け

 「われわれがテロリストを恐れれば、彼らの勝利だ。テロリストが残酷で憎悪に満ちた活動をする機会は一度たりとも与えない」。プーチン氏は昨年(2013年)9月、治安機関は五輪の安全を守り、テロを防げると自信を示した。

 しかし、この言葉とは裏腹に10月以降、ソチから約700キロのボルゴグラードで路線バス、駅舎、トロリーバスが次々とテロに襲われた。死者は計40人に上った。

 「次はどこが標的に?」。ロシア国内外でソチの安全に懸念が募る。

 ソチから約600キロ圏内の北カフカス地域。ここを拠点にイスラム教国家の樹立を目指す独立派武装勢力「カフカス首長国」のドク・ウマロフ司令官が昨年(2013年)7月、開催阻止に全力を注ぐよう「同志」に呼び掛けた。ウマロフ司令官は1990年代のチェチェン紛争から対ロシアの戦闘に加わってきた。

 独立派武装勢力などの主張では、ソチは19世紀に南部へ領土拡大を続けた帝政ロシアが先住民族チェルケス人などを虐殺した地。今年は虐殺から150年に当たる。ウマロフ司令官はソチ五輪を「われわれの先祖の骨の上で行われる悪魔のゲームだ」と決め付ける。

 ただボルゴグラードの爆破テロとウマロフ司令官との関連は不明。北カフカス地域には複数の武装組織があり、治安当局は一つの指導部の指揮下で各組織が行動しているとの見方には否定的だ。

 ロシアの国家テロ対策委員会はこうした組織に対するウマロフ司令官の影響力は限定的だが、理論的な指導者としての役割は少なくないと分析する。司令官の死亡情報もあるが、連邦保安局(FSB)当局者は「遺体を発見し、DNA鑑定で本人と特定するまでは死亡と言えない」と話す。

 会場周辺に最新式装備

 ロシアではダゲスタン共和国などの北カフカス地域で武装勢力の掃討作戦が長年にわたり続く。昨年(2013年)12月のプーチン氏の発表では、治安当局は昨年(2013年)、77件のテロ犯罪を未然に防ぎ、255人の戦闘員を殺害、500人超を拘束した。

 「われわれは最も野蛮な手段をとる者との戦争状態にある」。FSBの前身、旧ソ連国家保安委員会(KGB)でテロ対策部門の幹部を務めたルツェンコ氏は語る。

 ソチ五輪には選手ら約6000人の関係者や多数の観客の訪問が予定され、会場周辺には軍の最新式装備が展開する。高性能対空ミサイルシステムS300や、移動式防空システム「パンツィリS1」、黒海には対破壊工作船「グラチョノク」を配備。山岳部などを無人機が哨戒飛行する。

 動員される警官はソチの人口の1割弱に相当する約3万7000人で、数千台の監視カメラが稼働する。会場に入るには金属探知機を通り、観客には個人情報を五輪組織委員会に登録した「観戦者パスポート」の事前取得が義務付けられる。

 こうした対策が結実したと言えるのはテロなしで閉幕を迎えたときだ。(ソチ/SANKEI EXPRESS)

 ■チェチェン紛争 ロシア南部チェチェン共和国で、ロシアからの独立を目指す武装勢力とロシア軍など治安部隊との間で1990年代以降続いた紛争。ソ連崩壊直前の91年11月、イスラム教徒主体のチェチェン共和国が独立を宣言。ロシア軍は94年と99年の2度、軍事進攻した。武装勢力は2002年のモスクワ劇場占拠事件、04年の北オセチア共和国の学校人質事件など数々のテロを実行。2000年代半ば以降、チェチェン共和国の治安は改善し、ロシア国家テロ対策委員会は09年に対テロ作戦終了を宣言した。(共同)

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