“格差の象徴”狙われるグーグル社員バス 市民が妨害、停車料徴収へ

2014.1.16 06:30

 米グーグルなどのIT企業がサンフランシスコ市で社員の通勤のために運行している無料シャトルバスが、「格差社会」の象徴として標的にされている。市内に古くから住む地域住民らは、近郊のシリコンバレーに通勤する高級取りのIT企業社員が市内に流入した結果、家賃などの物価高騰を招いたと猛反発。バスの運行を妨害する抗議行動を起こした。事態を重く見た市当局は、バスが停留所に停車するごとに料金を徴収する規制案を打ち出すなど、不満の解消に躍起となっている。

 「社員用バスは目に見える経済的不平等であり、(地域住民の)欲求不満発散のための便利な存在と化している」

 市のベイエリア都市政策機構のガブリエル・メトカーフ常任理事は、過激な抗議行動を危惧している。

 冷静な対応呼びかけ

 米メディアの報道によると、標的となっているのは、グーグルが市内から近郊のシリコンバレーにある職場まで社員を運ぶために運行している32台のシャトルバスだ。全米最悪といわれる交通渋滞のなか、優雅に通勤するエリート社員たちへのやっかみが爆発。昨年(2013年)12月に市民や活動家がバスを約30分間取り囲み抗議する事態となった。ほかにもバスの窓ガラスが割られるなどの小競り合いが起きているという。

 こうした事態を受け、エド・リー市長は今月(1月)6日、グーグルのほか、フェイスブックやアップル、ヤフーなどシャトルバスを運行しているIT企業に「停車料金」を課す規制案を発表した。1月21日に開く市交通局の理事会で導入を決定する予定だ。

 規制案は、停留所に1回停車するごとに1ドルを徴収するもので、試験運用として18カ月実施。シャトルバスの利用者は約3万5000人に上り、毎日数千カ所で停車しているという。市は期間中の徴収額を150万ドル(約1億5500万円)と見積もっている。規制は渋滞の緩和が目的で、集めた資金は市営バスの停留所の整備などに充てるという。

 リー市長は「シャトルバスは怒りの象徴になっているが、私は良好なサービスを提供していると思うし、交通混雑の緩和に貢献している」と、地域住民らに冷静な対応を呼びかけた。

 家賃上昇強制退去も

 だが、地域住民の不満は根強い。大手IT企業社員の年収は技術者で平均約12万ドルと一般サラリーマンの3倍以上。彼らが市内に大量流入した結果、市の平均家賃は3414ドルと、この3年で22%も上昇した。一方、市住民の23.4%を貧困層が占めているが、家賃の高いアパートメントへの建て替えのため、強制退去を迫られるケースが相次いでいるという。

 市民団体の責任者は米メディアに対し、「(市の規制案は)昔からの住民が住み続けられるようにするという要求の回答になっていない」と批判。市当局のメトカーフ氏も「問題は市の交通システムが不十分で、多くのIT企業が公共交通の便のない郊外にあるという理由に起因している」と、対応の不十分さを認める。

 ほとほと困ったグーグルは、社員を海路で通勤させる専用フェリーの導入を検討しているというが、新たな“やっかみの種”になるのは必至。格差を埋めるのは簡単ではない。(SANKEI EXPRESS)

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