1ミリ程度の微妙なさじ加減で表現したい 舞台「花子について」 西田尚美さんインタビュー

2014.2.10 17:30

 俳優女優の取材には、たいてい事務所の誰かが付き添ってくるが、西田尚美(43)はインタビュー場所となる劇場ロビーに、1人でふらりとやってきた。鏡を数秒、のぞいただけで、そのまま写真撮影がスタート。飾らない人柄や、会話の端々で見せる笑顔に、つい引き込まれそうになった。

 ポジティブな情念を

 そんな西田が今、シアタートラム(東京)で上演中の3部作形式の舞台「花子について」(作・演出、倉持裕)で、異色のファンタジー作「班女(はんじょ)」に出ている。演じるのは、3年もの間、愛する吉雄(近藤公園)の迎えを待ち続ける女性、花子だ。「苦もなく、ただいつか会えるという希望を信じて待ち続ける花子のポジティブな情念を見せたい」と意気込む。

 待ち続ける間、吉雄と交換した扇子を肌身離さない花子は愛らしい。だがその待ち方が、かなり変わっている。

 朝から晩まで、扇子を持ってタクシー乗り場に立ち、乗客の列の中に吉雄の姿を探すという、狂気じみた日課をただ繰り返してきた。タクシー乗り場で会うなんて約束はしてもいないうえ、吉雄がシリアに行ったとか、大けがをしただとか、会えない理由を勝手に妄想しているフシもある。

 「最初は普通の人のように見えたけれど、あれ、この人、おかしいぞ、という感覚が徐々にやってくるように演じられたら。花子の不思議な存在感を、地表から1ミリ程度の微妙なさじ加減で地に足がついていないような形で表現したい」

 今も昔も変わらない

 この異色のファンタジーは、能作品から着想を得て生まれた。狂言師、野村萬斎(47)が芸術監督をつとめる世田谷パブリックシアターの企画「現代能楽集」の第7弾で、物語のもとになったのは能の狂女物「班女」の題材を借り、三島由紀夫が創作した「近代能楽集『班女』」。筋をなぞりながら、時代設定が書き換えられた3つの「班女」を読み比べると、時代が変わっても、恋する女の狂おしさには通じるものがあるとわかる。西田も「今も昔も人間模様や、人の心のコアな部分は変わらないんだな、と改めて気づいた」という。

 それ急に言われても…

 実は別の能作品3本を翻案して2010年に上演された「現代能楽集V」(作・川村毅、演出・倉持裕)にも出演。当時は、日舞からヒントを得た動きを身につけるのに苦心した。

 「私の中の引き出しにはない動きを求められても、『えっ、それ急に言われても』って焦ってしまう不器用、ダメ人間なので(笑)。必死に、こっそり家で練習していました。うまくできなくても、見た友達が『あれ、面白いよ』といってくれたので開き直りました。今回はそんな舞う場面もないので、気持ちをラクに楽しんで演じたいです」(文:津川綾子/撮影:小野淳一/SANKEI EXPRESS (動画))

 ■にしだ・なおみ 1970年2月16日生まれ、広島県出身。ファッション誌のモデルとして活躍後、93年、ドラマ「オレたちのオーレ!」で女優デビュー。以降映画、テレビ、CM、舞台で幅広く活躍し、97年の映画「ひみつの花園」(矢口史靖監督)で日本アカデミー賞新人賞を受賞。

 【ガイド】

 2月16日まで シアタートラム(東京)。世田谷パブリックシアターチケットセンター (電)03・5432・1515

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