居間という日常から転換期の葛藤を見る 劇団民藝「白い夜の宴」

2014.6.30 16:20

 時代の転換点に生きるとはどういうことか。劇作家、木下順二(1914~2006年)は1967年に書き下ろした戯曲「白い夜の宴」で、このことを問いかけたかったように思える。

 登場するのは戦前から戦後の節目を象徴する三世代だ。内務省官僚として終戦工作に携わった祖父(内藤安彦)、左翼から転向し今や自動車会社社長の父(西川明)。その息子の一郎(齊藤尊史)も安保闘争に挫折後、父の会社に拾われ会社員になっていた。

 東京五輪開催直前、経済成長著しい頃の夏の夜。物語は、この3人が集うはずの宴に一郎が帰ってこないことから始まる。前日、一郎は別れた恋人、凉(桜井明美)に、「自殺」を示唆する手紙を送っていた。

 描かれているのは、信念を折って資本の側に転向し、“精神的な自殺”を図ったことを負い目にする父や息子の葛藤だ。重いテーマだが、戦後しばらく当たり前だった家族だんらんの居間を舞台にして、身近な雰囲気にして伝える。

 若かった父が思想犯で留置場にいた頃や、一郎の安保闘争の座り込み直前など、時代の異なる回想エピソードや、人物それぞれの背景が積み重なったこの戯曲を、演出の丹野郁弓が丹念にひもといた。挫折も含め、一郎は「自分でつくりあげた歴史を宿命などと呼ぶな」と訴える。今の社会を嘆くばかりでは恥ずかしいと気持ちが改まった。7月2日まで、東京・新宿の紀伊國屋サザンシアター。(津川綾子/SANKEI EXPRESS)

閉じる