若い世代や女性 進む「日本酒回帰」 宝酒造のスパークリング日本酒「澪(みお)」が人気牽引

2014.10.7 11:55

 和食のユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産登録や、各地で施行される日本酒での乾杯推奨条例を背景に、若い世代や女性の“日本酒回帰”が進んでいる。この流れを牽引(けんいん)しているのが、爽やかな口あたりで人気の発泡性のスパークリング日本酒だ。中でも、宝酒造(本社・京都市下京区)の「澪(みお)」(300ミリリットル入り、税別475円)は前年比4倍の出荷量を記録。同社は「今後も成長が期待できる商品」として増産態勢に入った。澪を製造しているのは、原材料や製法にこだわった高品質な日本酒の製造、開発を行う同社の白壁蔵(しらかべぐら、神戸市東灘区)と呼ばれる工場だ。澪の増産に向け、拡張工事が行われたばかりの同工場を訪ねた。

 神戸港と六甲山に囲まれた絶好のロケーションを背景に、「造り酒屋」をイメージしたというモダンな外観が目をひく。巨大なタンクの並ぶ工場内部は、日本酒の甘い香りのなか、白い作業服を着た従業員がてきぱきと計器類を操作していた。

 山から吹き降ろす冷たい六甲おろし、兵庫県内で生産される山田錦をはじめとする良質な酒米、「宮水」と呼ばれる地下水…日本酒造りに適した立地のもと、白壁蔵(地上6階、延べ床面積約6338平方メートル)は高品質な日本酒造りを目指して平成13年に完成した。

 同社を代表する日本酒のブランド「松竹梅白壁蔵」シリーズをはじめ、純米大吟醸酒、大吟醸酒などを製造。杜氏(とうじ)や蔵人が長年培ってきた手造りの技を生かしながら、そこに最新の機械や技術を組み合わせた酒造りをしている点が大きな特徴で、ヒット商品となった澪もここから生まれた。開発には実に6年の歳月がかかったという。

 「一般的な日本酒のアルコール度数は15%ですが、澪は5%。アルコール度数が低いと、どうしても味が薄い感じになってしまうので、その点をどうするかが一番難しい点でした。炭酸ガス、甘みをバランスよく配分しつつ、しっかりと米の旨みを引き出せたところが、市場で評価された一つの理由ではないでしょうか」と白壁蔵の碓井規佳(うすい・のりよし)工場長(53)は話す。

 スパークリング日本酒は現在、約100銘柄が販売されている。しかし、日本酒市場に占める割合は1%程度と、まだまだ低い。こうしたなか、澪は昨年度、前年比4倍の60万ケース(1ケースは300ミリリットル12本入り)を記録。今年も、「好調な伸びを示している」(同社)といい、その動向が業界でも注目されている。こうした需要の増加に対応するため、同社では、白壁蔵の原酒製造設備と、伏見工場(京都市伏見区)の瓶詰設備の増強に約25億円を投じた。今年秋から冬には年間200万ケースの供給が可能になるという。

 精米したコメを洗う「洗米」に始まり、水に漬けて水分を吸収させる「浸漬(しんせき)」、コメを蒸し上げる「蒸(じょう)きょう」、麹(こうじ)菌を育成させる「麹造り」…。日本酒ができるまでには多くの工程があり、どれ一つおろそかにできない。温度や時間、タイミングなど寸分のミスも許されないシビアな作業が続く。

 白壁蔵では、設備面にも徹底的にこだわり、かつての和釜の原理を再現した連続式蒸米機や均一に温度のコントロールができる仕込みタンク、味にむらが出ないようにコメが水を吸う速度を秒単位でコントロールできる浸漬装置などを導入。一部の機械は、メーカーと独自開発するこだわりようだ。

 「ここは工場でありながら、研究所でもあります。杜氏や蔵人が継承してきた経験やノウハウを継承しながら、これまで勘にたよっていた香りや温度など、データをとって数値化できるものは数値化し、それによって安定した品質の日本酒造りを目指しています」(碓井工場長)

 白壁蔵で製造した日本酒は、全国新酒鑑評会において11年連続で最高賞である金賞に選ばれている。こうした成績が、工場の技術力の高さを証明している。

 ただ、従来白壁蔵で製造してきたのは、販売ルートや数量を限定した製品が中心で、全国に出荷するような流通量の大きな製品は、比較的少なかった。多くの人の目に触れる大型な商品を製造することに、現場の士気は大いに上がったという。

 「澪が完成し、商品のテレビCMを目にしたとき、現場では大きな歓声が上がりました。あちらこちらのスーパーやコンビニの棚に並んでいるから、家族にも『あれは、お父さんたちが造っているお酒だよ』と自慢できるようになった、と喜ぶ従業員もいます」(碓井工場長)。

 原材料や設備、技術や経験にもましてお酒造りに必要なのは、「熱いハート」だという。「たとえば、休みの日に心配になって、2時間もかけて工場にやってきてタンクの様子を見に来るような従業員も少なくありません。愛情というのでしょうか。そこが、他の工業製品とは大きく異なるところ」。熟練の技と最新技術、さらにプラスアルファとして製品への愛情。この3つの要素が一つになって、初めて白壁蔵の高品質な日本酒が実現するのだろう。碓井工場長は「白壁蔵のお酒は、いつどこで、どれを飲んでもおいしい。そんなお酒を造り続けたい」と表情をひきしめた。

 ≪注目のスパークリング日本酒≫

 国税庁によると、日本酒の消費量は昭和50年度の167万5000キロリットルをピークに減少が続いていたが、平成23年度は、前年度(58万9000キロリットル)から2.1%微増し60万1000キロリットルに。酒どころの京都市や兵庫県西宮市など、全国各地で日本酒による乾杯をすすめる条例が制定されるなど、日本酒にとって追い風も吹いている。そうしたなか、シャンパンのように宴席での乾杯のシチュエーションで飲まれる機会の多いスパークリング日本酒は、今後、市場を牽引する商品の一つとして注目されている。(ニュースペース・コム編集部、写真も/SANKEI EXPRESS)

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