男女6人「火星生活」精神観察 NASA主導、8カ月隔離実験

2014.10.29 00:00

 2030年代に火星有人探査の実現を目指す米航空宇宙局(NASA)が中心となり、米ハワイ島のマウナ・ロア山(標高4169メートル)に建設されたドーム形施設で、男女6人が8カ月間、完全に隔離された状態で生活する実験が行われている。心理状態の変化を観察し、往復に最短で1年かかり、火星に500日間滞在するという過酷な探査に人間の精神が耐えられるかを調べるのが目的だ。NASAは、有人ロケットや着陸装置の開発、基地の建設といった技術的な課題に加え、クルーの精神的な問題が火星探査実現の鍵を握ると位置づけている。

 「有人火星探査には心理的リスクに不明な点があり、完全に解明されていない。この問題を解決するまでNASAは火星に人類を送り込むつもりはない」

 今月15日に始まった実験の主任研究者である米ハワイ大学マノア校のキンバリー・ビンステッド教授は、調査の重要性をこう強調した。

 採石場跡にドーム

 米紙ニューヨーク・タイムズやフランス通信(AFP)などによると、参加したのはNASAが選んだ男性3人、女性3人。標高約2400メートルの地点にある火星に見立てた採石場跡に直径約11メートル、高さ約6メートルのビニール製のドーム形施設を建設。宇宙船内や火星基地内と同じ隔離生活に入った。

 実験の間は、新鮮な食料は食べられず、ドームの外に出るときは宇宙服を着用しなければならない。外との連絡は電子メールだけで、しかもネットの接続には、火星での想定と同じ20分もかかる。

 6人を率いるマーサ・レニオ隊長(34)は再生可能エネルギーのコンサルタント会社の起業を目指しているという。他のメンバーもNASAの航空宇宙技術者、米軍の無人機の技師、大学院生など幅広い。

 ビンステッド氏はAFPに対し、「リアリティー番組とは逆に、ドラマが起きないような人たちを選んだ。互いに歩調を合わせ、団結してやっていける冷静な人たちだ」と説明した。

 実験では共同生活の様子をモニターし、心理状態の変化がミッションに与える影響を調べる。また、メンバーの話す声の大きさやメンバー同士が話す距離の近さなどを測定し、そこからメンバーの間でいさかいが起きていないかや、誰かが孤立していないかを外部から把握するといった実験も行うという。

 見渡すかぎり溶岩

 過酷な長期ミッションの重圧に宇宙飛行士が精神的に耐えられるかを調べる実験はこれまでも複数行われているが、今回が最長となる。ロシアが2010~11年に行った520日間の実験では、参加者6人のうち4人が睡眠障害に陥った。米ユタ州に設けられた「火星砂漠研究基地(MDRS)」でも実験が行われており、このプロジェクトでは来年からカナダの北極諸島で1年間の長期実験を実施するという。

 ロケットや着陸装置のほか、火星での酸素や食料の確保など現在の人類の科学技術では実現できない課題は山積だが、こうした技術的な問題は今後の科学の進歩で解決できる期待もある。しかし、精神的な問題の克服は科学では不可能だ。

 「周囲は見渡すかぎり溶岩に覆われており、植物も動物もほとんど見られない」

 今回の実験に参加した大学院生のジョスリン・ダンさん(27)は開始2日後の17日に、自らのブログにこうつづり、早くも不安な様子をうかがわせた。(SANKEI EXPRESS)

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