【2014回顧】(3)海外 「イスラム国」急拡大 国際社会に影

2014.12.27 10:20

 2014年に世界を駆け巡った数多くのニュースのなかで、国際秩序を最も揺るがせたのは、イスラム教スンニ派の過激派が6月にイラクとシリアに樹立した「イスラム国」の台頭だった。

 イスラム国の侵攻で住居を追われ、イラクの街シンジャルからシリア国境付近に逃げてきたヤジディの少女。ヤジディは独自の宗教を持つ少数民族で、これまでクルド人地域に暮らしてきたが、キリスト教徒などとともにイスラム国から異教徒として迫害されている。国連は少女を含むヤジディやキリスト教徒の女性数百人がシリアで兵士らに報酬として与えたり性的奴隷として売却されたりしていると報告している。

 ≪逃げ惑う少数民族≫

 シリア国境に近いイラクの街シンジャルの周辺を逃げ惑うヤジディの女性と子供たち。原油の密輸や一部産油国の支援で活動資金を調達し、イスラム過激派にイラクの旧フセイン政権の軍関係者が合流したイスラム国は強い軍事力を持ち、瞬く間に勢力を拡大した。

 西欧化への抵抗というイスラム主義運動の思想を背景に、イスラム国に賛同して世界各地から若者が続々と駆けつける事態が起きており、欧米を中心に社会問題ともなった。シンジャルでは12月に入って、クルド人勢力が山頂部分を奪還。麓の街をめぐる攻防がイスラム国との最前線となっている。

 ≪テロ温床の懸念≫

 シリア北部のラッカで、軍事パレードに参加するイスラム国の兵士たち。イスラム国は、広い意味では、中東の植民地化と西洋化への抵抗として近代に入って生まれた「イスラム主義運動」の一形態だ。

 運動の一部が急進化するなかで、2011年の米中枢同時テロを起こしたアルカーイダが世界規模でのジハード(聖戦)を唱導。イスラム国にもその急進思想は受け継がれており、国際テロの温床になるとの懸念は強い。ラッカはイスラム国の事実上の首都とみられており、米軍主導の有志国連合による空爆が断続的に行われている。

 ≪消えたマレーシア機≫

 3月8日、乗客乗員239人を乗せたクアラルンプール発北京行きマレーシア航空機370便が突然、連絡を絶った。国際的な捜索活動が続けられたが、有力な手掛かりは発見されなかった。

 針路を変更し、インド洋に墜落したとの見方が強い。高度情報社会といわれる現代に、乗客乗員を乗せたまま旅客機が突然消えてしまうという異例の事態となった。

 ≪米国人射殺事件 人種問題の根深さ露呈≫

 米中部ミズーリ州ファーガソンで白人警官が18歳の黒人男性を撃って死亡させた。世界最大の軍事経済大国、米国では白人警官が黒人住民を死亡させ、大陪審で不起訴になるケースがミズーリ州やニューヨークなどで相次ぎ、人種偏見や差別の撤廃を訴える街頭デモが米国各地で繰り返され、米国における人種問題の根深さと憎悪の連鎖を改めて示した。

 一方、11月4日の米中間選挙では民主党が惨敗、残り任期2年余りとなったバラク・オバマ大統領(53)の政権運営は厳しさを増した。

 ≪ウクライナ「内戦」≫

 ウクライナを舞台に、米国や欧州連合(EU)とロシアの対立が深刻化した。EUとの関係強化をめぐってウクライナの国論は二分され、1月には反政府デモ隊によってウクライナの首都キエフが占拠された)。2月に政権が崩壊すると、ロシアは3月にロシア系住民の多いウクライナ南部クリミアの編入を宣言。日米欧は対露制裁を決めた。

 ウクライナはロシア系住民が東部で独立を宣言して内戦状態となり、7月にはアムステルダム発クアラルンプール行きマレーシア航空機がウクライナ東部で撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した。

 ≪韓国旅客船沈没 問われる危機管理≫

 韓国南西部の珍島沖で4月16日、修学旅行の高校生らが乗った旅客船セウォル号が沈没、295人が死亡、9人が行方不明になった。乗客の避難誘導を怠った船長や船会社だけでなく朴槿恵政権の危機管理体制も非難された。11月、船長に遺棄致死罪などで懲役36年が言い渡された。

 ≪香港民主制 進む形骸化≫

 香港返還17周年の記念日にあわせた7月2日、民主派の学生たちは次期行政長官選の民主的な手続きを求めて金融街の路上に座り込み、警官に排除された。

 その後、中国は香港の次期行政長官選から民主派候補を事実上排除する制度を決定。反発した学生らが9月28日から香港中心部の幹線道路などを占拠して抗議を開始した。占拠は12月15日に終結し、逮捕者は955人に上った。

 中国の習近平体制の強圧的な統治姿勢を反映したもので、英国からの香港返還時に約束されたはずの「一国二制度」による香港の自由と民主主義はますます形骸化している。

 ≪エボラ禍、西アフリカ襲う≫

 高熱や頭痛、下痢などを伴う致死率の高いエボラ出血熱の感染者がリベリア、シエラレオネ、ギニアなど西アフリカで拡大した。8月に世界保健機関(WHO)は緊急事態を宣言、死者は12月に7000人を超えた。

 欧米で医療関係者らの感染も起き、日米やカナダなどで治療薬の実用化を進めた。

 ≪パキスタン 17歳少女が平和の使者に≫

 教育の権利をめぐりイスラム武装勢力に銃撃されたパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさん(17)が12月10日、ノーベル平和賞を受賞した。

 受賞演説で全ての子供に教育をと訴えたが、その6日後の16日、マララさんの母国パキスタンでは武装勢力がペシャワルの軍学校を襲撃、生徒ら140人超が犠牲になった。マララさんは「愚かで冷血なテロ行為」と非難した。(EX編集部/撮影:ロイター、AP/SANKEI EXPRESS)

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