ジェブ・ブッシュ氏が抱えるジレンマ

2015.1.13 09:50

 【アメリカを読む】

 2016年の大統領選出馬を「積極的に探る」としてきた共和党のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(61)が、新年の訪れとともに本格始動した。ネット上での発信も活発化させており、6日には自らのフェイスブックで政治資金の受け皿となる政治活動委員会(PAC)の設立を発表した。

 ヒスパニック票

 「ブエノス・ディアス(こんにちは)。本日、PAC『向上する権利』を設立しました」

 ブッシュ氏はニューヨークの街角を歩きながらスペイン語で設立趣旨を説明する動画をフェイスブックに投稿した。流暢(りゅうちょう)なのには理由がある。コルンバ夫人(61)はメキシコ出身。高校時代のブッシュ氏が交換留学でメキシコに滞在し、英語を教えていたときに知り合った。

 次期大統領選では、全米の総人口の約17%を占め、黒人を抜いている「最大のマイノリティー(少数派)」、ヒスパニック(中南米系)が動向を左右する。ブッシュ氏の経歴が、大統領選でプラスに働くことは間違いないだろう。

 特に、フロリダ州には伝統的に共和党を支持してきた全米のキューバ系移民の7割が集中している。大統領選の大票田であるフロリダ州は、民主、共和両党への支持が選挙のたびに揺れ動く「スイング・ステート(揺れる州)」でもあり、ここで知事を務めたことはブッシュ氏の利点となる。

 「大きな政府」を求めるか

 12年大統領選の共和党候補、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(67)が「16年」への意欲を見せ始めたことで指名争いが面白くなりそうだが、共和党支持層の間ではブッシュ氏への期待が一気に高まっている。

 昨年12月、ブッシュ氏が出馬検討を表明した後に米CNNテレビと調査会社ORCインターナショナルが行った世論調査によると、共和党支持層のブッシュ氏への支持は前月の14%から23%に上昇し、2位のクリス・クリスティー・ニュージャージー州知事(52)の13%を大きく引き離した。

 保守色の強いマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事(4位)、ランド・ポール上院議員(5位)、テッド・クルーズ上院議員(8位)は軒並み支持率が低下していた。

 ただ、「穏健派」の顔が共和党における大統領候補の指名争いでマイナスになる可能性もある。同じ調査ではブッシュ氏を支持しない理由の上位に、不法入国問題への対応の甘さ(42%)、知事時代の州政府支出の増加(40%)が上がった。不法移民の取り締まり強化や「小さな政府」は強硬な保守派が求める政策である。

 「大統領予備選では穏健派と保守派のどちらに共和党を導いてもらいたいかを有権者が選ぶ。支出を増やし、増税する候補者を求めるかどうか。それは時間がたてば分かるだろう」

 強硬派の保守系草の根運動「茶会(ティーパーティー)」が推すポール氏は最近、保守系ネット・メディア「ブライトバート」のインタビューでこう述べた。ブッシュ氏を意識した発言であることは明らかだ。

 分裂の芽は消えず

 昨年11月の中間選挙に先立つ共和党の予備選では茶会系の退潮が伝えられたが、上下両院で共和党が過半数を握る新議会で反乱が起きた。6日の下院議長選でジョン・ベイナー氏(65)の再選を阻止しようと25人がベイナー氏以外に投票したのだ。医療保険制度改革(オバマケア)などでのバラク・オバマ大統領(53)との融和的な姿勢に不満を表明したのだ。ワシントン・ポスト紙(電子版)によると、これほどの造反が出たのは1860年以来だという。

 今回の造反劇のバックには、茶会系を資金面で支える団体「フリーダム・ワークス」の存在があった。全米に670万人いるとされる草の根の活動家に対し、新議員に電話、メール、ソーシャル・メディアを通じて造反を働きかけさせたと報じられている。失敗に終わったが、路線対立はくすぶっている。

 世論調査会社ギャラップの最新の調査によると、自らを無党派と考える米国人は過去最高の43%に上った。

 ブッシュ氏のPACの設立趣旨「全ての米国人に向上することを認める保守主義」はこうした層を引き付ける可能性がある。兄のジョージ・W・ブッシュ前大統領(68)が2000年大統領選で「思いやりのある保守主義」を掲げたことをほうふつさせる。

 その一方で「大きな政府」を連想させるスローガンは共和党員による予備選では不利に働く。このジレンマを乗り越え、党を一つにまとめるだけの旗を掲げられるかがブッシュ氏にとって最大の課題となる。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)

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