脱電機路線にOB苦言 「ソニーよ、創業理念取り戻せ」

2015.5.8 08:30

 収益力回復に向けて脱「電機事業」を加速するソニーの現経営陣に、有力OBが苦言を呈している。創業者の井深大氏が理念に掲げた「自由闊達(かったつ)で愉快なる理想工場」を取り戻すことが再生の道だとして、米国型経営の見直しを求めている。

 見直し求め直談判

 「時代が変わっても創業精神は忘れてはならない」。元副会長の伊庭保氏や、家庭用ゲーム機「プレイステーション」の生みの親である久多良木健氏ら有力OB5人が4月16日、東京都内の本社を訪れ、平井一夫社長(54)ら現経営陣と向き合った。

 「10年、20年先を見据え、どう電機事業をかじ取りするのか」「生え抜きの技術者を取締役会に増やすべきだ」-。

 OBは提言書も交えて意見をぶつけたが、現経営陣は2月に発表した今後3年間の中期計画を説明するばかり。対談は終始、和やかなムードだったが、収穫はなかったという。

 「EVA」の反省

 ソニーは1990年代後半から、米国型の経営手法を先駆的に導入していった。社外出身者が大半を占める取締役会制度や、現場のどんぶり勘定を許さない「EVA」と呼ばれる指標を用いた利益管理が代表例だ。

 だが元上席常務の蓑宮武夫氏は著書で、一連の改革を「良薬のつもりが、独創的な会社を普通にしてしまう劇薬だった」と指摘する。

 パスポートサイズのビデオカメラ「CCD-TR55」などの開発を担った技術者の蓑宮氏は、目先の利益や株価が優先され、開発に10年以上費やした「CMOSイメージセンサー」のような革新的な製品が出せない構造になったと分析する。

 元社外取締役の一人は「花開くか分からない技術を上司に隠れて開発するような、混沌(こんとん)としたソニーらしさを失わせてしまった」と、反省も込めて改革の行き過ぎを認める。

 いわゆる「ソニー・ショック」が起きた2003年、電機事業の衰退を痛感し投資強化を訴えたが、流れは変えられなかったという。05年に米放送大手出身のハワード・ストリンガー氏(73)がトップに就き、技術者は一段のリストラの嵐に見舞われた。

 06年には、ダンスを踊る試作機を公開し世界中を驚かせた人型ロボット「QRIO(キュリオ)」からの全面撤退も決めた。

 現経営陣は採算重視

 現経営陣は中期計画で、電機の各事業の分社化を進め、採算を厳格にコントロールする方針を打ち出した。投資を絞り込むテレビとスマートフォンの事業は売却の可能性を否定していない。

 平井氏は「引き続きOne Sony(ワン・ソニー)を合言葉に求心力を発揮していく」と訴える。だが分社化は、EVAによる利益管理の延長線上にある考え方だ。創業者の経営理念は置き去りにされたままだ。

 ロボット事業を率いた元上席常務の土井利忠氏は、技術者が理想工場の理念の下に集い、心理学で言う「フロー状態」に入っていたことが、ソニー躍進の原動力だったと考えている。スポーツ選手が心身を限界まで使い、最高の結果をだした時に体験する「ゾーン」と同じ状態だ。

 土井氏は現在、フロー状態をつくり出す経営理論を提唱し、数々の著書を出版している。参考になればと、平井氏に献本を続けているが「反応が返ってきたことはない」という。(SANKEI EXPRESS)

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