曲者ぞろいの猟奇ドラマ 1点の清涼剤 松尾スズキ+二階堂ふみ 舞台「不倫探偵~最期の過ち~」

2015.5.18 15:10

 劇作家の松尾スズキ(52)が主演、脚本、演出とフル稼働する新作「不倫探偵~最期の過ち~」が29日から東京で上演される。主宰する劇団「大人計画」とは別の取り組みで、くせ者ぞろいの登場人物が織りなす愛憎劇は不倫に殺人と、猟奇的でいてどこか「バカバカしさ」も漂う。その中で松尾は、舞台では初共演となる二階堂ふみ(20)に「清涼剤になってほしい」と依頼。一体どんな世界が展開されるのか。

 「不倫探偵」は松尾が大人計画以外の演劇人と組むユニット「日本総合悲劇協会」の11年ぶりの新作。漫画家としても活躍する天久聖一(あまひさ・まさかず)と共同で原作、脚本、演出を担当している。

 ある雑居ビルの一室で探偵業を営む罪十郎(松尾)に、女性が夫の浮気調査を依頼しに来る。罪はその日のうちに女性と不倫関係になる。次の日の朝、隣室でその夫が殺されているのが発見され、現場のトイレには拳銃を持った風俗嬢(二階堂)がいた。女刑事の赤星(片桐はいり)を軸に事件が解明されていく過程で、登場人物の忌まわしい過去が浮かびあがる。

 「人間の因果関係によるトラブルが醸し出す、『大人計画』ではあまり挑んだことのない、面妖でじっとりした空気感を出したい。(ユニット名の)『悲劇』は半ば冗談。『こうしたら面白い』という表現を最優先する世界観を作っている」と松尾は解説する。

 演じる罪十郎は「(過去の)罪悪感にとらわれながら、ある部分はどうでもよくなり、その結果、ある種のダンディズムが生まれたバカバカしい男」と複雑な内面を持つ。マンガのようにグロテスクでエロチック、ナンセンスといった「エロ・グロ・ナンセンス」的な展開もある。とはいえ「リアリティーがなければ成立しない」と、稽古をしながら独特の世界観を作ろうとしている。

 5年前からのメル友

 二階堂は松尾が監督、脚本を手がけ、出演もした今春公開の映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」に女子高校生役で登場。撮影終了時に「大人計画の舞台に出たい」と松尾に直談判して出演が決まった。「出演者が中年ばかりなので出てくれる若い女性を探していた。『渡りに船』の話だった」と松尾は笑う。

 舞台は2年ぶり3回目の挑戦だ。「濃い仕事だったので、当時はしばらく離れたいと思った」と一昨年の12月に米ニューヨークへ短期留学。ブロードウェーでイーサン・ホーク主演の舞台「マクベス」を見て「生の強さ」に圧倒される。帰国後も頻繁に舞台へ足を運ぶ。「あの独特の空気の中に自分も身を置きたいとわくわくした」と話す。

 二階堂と松尾は5年前、テレビドラマでの共演で知り合って以来の「メル友」という。「5年前の私は思春期のまっただ中で、『大人は嫌』だと思っていた。でも松尾さんのような面白いすてきな人がいるのなら、大人になるのも悪いことじゃないなと。『舞台に出るなら大人計画』と考えていた」と笑う。

 二階堂は映画「ヒミズ」(園子温(その・しおん)監督)の出演で、ベネチア映画祭で新人賞に当たる賞を獲得するなど演技力の評価が高い。舞台でもスターである才能を「発掘したいな」と松尾に「足を引っぱらないようにしなくちゃ」と笑う二階堂。舞台は予測不可能な面白さを秘めている。(文:藤沢志穂子/撮影:荻窪佳子/SANKEI EXPRESS)

 【ガイド】

 ■舞台「不倫探偵~最期の過ち~」 5月29日~6月28日。東京・本多劇場 問い合わせ 大人計画(電)03・3327・4312。大阪公演あり。

閉じる