【USA! USA!】(22)南部うまいもの物語 独自の食材・調理 歴史が育んだ

2015.6.16 13:30

 あなたはアメリカ南部の料理と聞いて何を思い浮かべるだろうか。ジャンバラヤ? ガンボスープ? はたまたキャットフィッシュ(ナマズ)やアリゲーター(ワニ)、クロウフィッシュ(ザリガニ)などの日本人には珍しい食材?

 「南部の食文化を一言で語ることは難しい。まずは歴史を知ることが重要だよ」-。ミシシッピ州ナッチェスのケビン・カービー観光局長がこう話すように、アメリカ南部が共有する「Southern hospitality」と呼ばれる独自の文化や生活習慣は、複雑な歴史的背景から形成されている。そこから生まれた食文化は、アメリカだけではなく、世界のどこにもみられない、独自でバラエティーに富んだ世界だ。

 植民地時代、フランスやスペインなどヨーロッパに起源を持つ支配者階級が生んだクレオール料理。カナダ東部、アケーディア地方からやってきた移民たちが生んだケイジャン料理。そこに労働力としてアフリカから海を渡ってきた黒人奴隷たちが、現在主食として多用される米やコーン、豆などの作物と、その調理法をもたらした。

 小麦の栽培に適さないアメリカ南部の亜熱帯気候。パンに替わる主食として米食が発達した。南北戦争を経て、米食文化はアメリカ南部の特色としてしっかり根付き、ほかにはみられない食文化が作られていった。

 ≪ケイジャン精神 クロウフィッシュが体現≫

 クレオール料理とケイジャン料理。両者を明確に区別することは難しい。前者が都会的で後者は庶民的だとか、クレオールの方がよりスパイスを多用するという意見もあれば、地元で採れる素材にこだわるのがケイジャン料理という説もある。労働者が裏庭で釣り上げて食卓に運ばれたのが始まりとされるクロウフィッシュ(ザリガニ)は、地産地消の精神をそのままに、ケイジャン料理を体現しているといえる。

 ルイジアナ州ブローブリッジ。ここは別名「クロウフィッシュ・タウン」とも呼ばれるクロウフィッシュの一大生産地だ。1600人以上が、総面積約450平方キロメートルの人工池でザリガニを養殖している。1859年に誕生したこの街は、1959年に100周年を祝し、ルイジアナ州議会が「世界のクロウフィッシュの中心地」と制定。街を挙げてクロウフィッシュを売り出すようになった。5月に開催される「クロウフィッシュ・フェスティバル(ザリガニ祭り)」には3日間の期間中、人口約8万5000人の街に約4万人が訪れる一大イベントだ。

 「世界中のザリガニの95%はルイジアナ州で消費されている」-。ザリガニを食べる機会が少ない日本人にとってピンとこない数字だが、それほど南部の人間にとってザリガニは身近な存在だ。レストランに入って周りを見渡せば、老いも若きも、男も女も、普段騒がしいアメリカ人がみな夢中で皮をむき、ザリガニを黙々と口に運んでいる。その光景は日本人がカニを食べると無言になるさまにも似て、妙に親近感が湧く光景だ。

 ブローブリッジの隣町、ルイジアナ州ヘンダーソンのレストラン「クロウフィッシュ・タウン・USA」では、週末になると約1800キロものクロウフィッシュが客に提供される。レストランのシェフ、ダスティー・ラショレーさん(27)は「僕は14歳からこの店で働いているから、クロウフィッシュはもう人生の全て。皿をテーブルに運んだ際の、お客さんが驚く顔が僕の働く活力だよ」と笑顔を見せる。聞けば1月にはテキサス州からヘリコプターで来店した客もいたとか。恐るべきクロウフィッシュの誘引力だ。

 普段口にしない食材、なじみ深い米料理、スパイスをきかせた刺激的な味、女性に人気のスイーツ。多くの文化が混ざり合ったアメリカ南部だからこそ、味わえる多様な料理がある。自分だけのお気に入りの一品を探してみるのも、旅の楽しみに違いない。(写真・文:写真報道局 川口良介/SANKEI EXPRESS)

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