石垣島から マンタとの不思議な出合い

2015.7.30 10:30

 世界中のダイバーは石垣島を目指す。その魅力は透明度の高い海で出合える数々の生物たちだ。色鮮やかな熱帯魚、長い長い年月をかけて成長するサンゴ礁。中でも多くのダイバーが憧れるのがマンタ(オニイトマキエイ)だ。僕が最初に出合ったのは2年前の夏だった。

 その日は朝から海は穏やかで、仕事が休みだったこともありダイビングへ出掛けることにした。地形など、海の中の広い風景を撮影する目的で機材をセッティング。同行した友人から「マンタを見たい」とのリクエストがあり、船は撮影ポイントへ向かうことになった。

 「マンタポイント」は、ウミガメが昼寝をしている場所でもある。海の底からでも船が目で確認できるほど透明度の高い、水深20メートルあたりの地点を、ウミガメを探しながら泳いでいると、頭の上に何やら黒い影が旋回している。

 ふっと水面の方を見上げると、横幅が3.5メートルくらいの巨大なマンタが頭上を優雅に旋回していた。だがその時の僕は「あ、いるな。写真でも撮るか」と、自分でも不思議なくらい、落ち着いた気持ちでシャッターを切った。

 マンタは手が届きそうな距離まで近寄ってきて、頭上を通り過ぎていった。その水を切って泳ぐ、水の流れまで肌で感じ取れる距離だった。

 大海原の中で偶然にすれ違ったマンタと僕。「絶対にマンタを見るぞ! 撮るぞ!」という意気込みが僕になかったことが、かえってよかったのかもしれない。犬は人間の気持ち、緊張感や不安感を読み取る動物とも言うが、マンタも同じなのだろう。振り返ればまた一つ、自然から学んだ一日だった。

 ≪大海原を悠々 癒やしの姿≫

 地球の表面積の7割を占める広大な海だが、解明されたのは僅か1割にも満たない。われわれダイバーが遊ばせてもらっているのは、ごく限られたスペースだ。でも海は潜る度に違う表情を見せてくれる。水中の無重力感覚を味わいつつ地形や生物を観察するのは、日常からかけ離れて刺激的だ。

 石垣島付近で見られる大型生物ではジンベイザメ、トビエイ系、ナポレオンフィッシュ、アオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ。イルカは石垣島では、船上から目撃する程度だ。クジラも通りすがりで、泣き声が海中では数十キロ離れていても聞こえてくる。独特の、歌を奏でるような声には聞き入ってしまう。

 「マンタポイント」は、石垣島の西端、川平(かびら)の先にある川平石崎から、さらに北へ3キロほどの沖合に行った場所だ。マンタのエラや身体に付いた寄生虫を食べてくれる魚がいるからマンタが現れる。海外では餌付けをした場所もあるというが、石垣島では自然のままで生態観察ができる。

 2年前に最初に出合えたのは「ビギナーズラック」のようなものだった。それからは出合うのに苦労している。

 ポイントに着いたら、慌てず騒がず呼吸を整え空気の消費量を減らしつつカメラの設定を決め、水中ストロボの角度や照度も設定してひたすら待つ。現れたと思っても遠すぎて、黒い影が泳いでるだけにしか見えず写真にはならないこともしょっちゅう。「僕の普段の行いが悪いからか? これからは品行方正に生活しなくては」などと思ってしまう。

 失敗を繰り返しているうち、チャンスはいつしか訪れる。「来た! それもベストアングル!」。この瞬間はアドレナリンが体中を駆け巡る。シャッターを押す瞬間は無意識に息を止めてしまう。ダイビング中に息を止めるのは、とても危険な行為なのだが。

 ダイバーはなぜマンタにひかれるのか。穏やかな性格で、体は巨大なのにエサはプランクトンだけで、大きな口で吸い込みエラで濾(こ)し取って食べる。その悠々とした姿に癒やされる人が多いのだろう。だから僕はきょうもマンタを探しに海に出る。(写真・文:フリーカメラマン 永山真治/SANKEI EXPRESS)

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