「国技」闘牛に逆風 左派躍進の余波 スペイン

2015.9.27 10:30

 【Viva!ヨーロッパ】

 スペインの「国技」闘牛。この獰猛(どうもう)な牛と人間が戦う壮大なスペクタクルに、再び逆風が吹いている。今年5月の統一地方選で左派勢力が各地で躍進し、多くの市町村議会を牛耳ることになった結果、闘牛事業への補助金を廃止したり削減する自治体が相次いでいるからだ。世界で最も権威がある「ラス・ベンタス闘牛場」を擁する首都のマドリード市は24日、由緒ある闘牛学校への補助金の廃止を決めた。

 削れるものは削る

 「削れるものは削って、限られた財源を有効に使わなくてはならない。これが政治の役目です」

 地元メディアによると、今年6月に就任したマドリードのマヌエラ・カルメーナ市長(71)は24日、市議会がマルシアル・ラランダ闘牛学校(生徒数38)への補助金廃止を決めると、このように語った。さらに、弁護士出身で急進左派政党「ポデモス(私たちはできる)」が後押しする政治グループの代表でもあるカルメーナ市長は「この学校への補助金は、他の文化的活動、スポーツ活動へ充てられている補助金と比べて金額が大きすぎる。また、行っている活動も動物の権利を侵している」と廃止理由を語った。

 数々の名闘牛士を生み出したマルシアル・ラランダ闘牛学校はこれまで、マドリード市から年6万1000ユーロ(約820万円)の補助金を受けてきた。これは、マドリード州政府や企業などからの補助金も含めた総補助金額の約4割にあたる。

 失業率が依然として20%台で高止まりするなど、経済苦境にあるスペインでは、5月24日の統一地方選で緊縮財政を掲げる国政与党の国民党が全土で大敗北。マドリードでも国民党が24年ぶりに市長の座を明け渡した。

 「反緊縮」下の皮肉

 スペインでは近年、カナリア諸島(州)が1991年に「動物愛護の精神に反する」という理由で、州内での闘牛興行を禁止した。さらに2011年、国内第2の都市バルセロナを州都とするカタルーニャ州が、同じ理由で闘牛を禁止にした。それでも現在、スペイン国内では3月から10月のシーズンに2000を超す闘牛の興行イベントが行われ、余興で行われるものも含めると年間約1万8000の闘牛が催されているとされる。

 また、従来の闘牛への逆風は、専ら動物愛護の観点からのものだったが、今回は経済的理由が背景なのが特徴だ。しかも、「反緊縮」財政を掲げて躍進した左派政権下で補助金を削られる皮肉な結果となっている。

 AP通信によると、スペイン中部の人口5000人ほどの小さな村、ビジャフランカ・デ・ロス・カバジェーロスも最近、闘牛事業への年1万8000ユーロ(約240万円)の補助金廃止を決めた。フリアン・ボラーニョス村長は「私に会いに来る人の十中八九が、仕事を求めて来ている。余裕のないこのご時世では、闘牛を話題にする人はいない。補助金廃止の本質は、金を使うなら『闘牛か学校の教科書か』といった問題だ」と語った。

 第3の都市バレンシアでも今月、闘牛事業への補助金削除を決定。バレンシア州内の近隣市でこれに続く自治体が相次いでいる。まるで燎原の火のごとく、反闘牛の風潮が広まっているが、スペイン闘牛畜産組合のカルロス・ヌニェス会長はAP通信に「われわれは不公正な猛攻撃を受けている。統一地方選がもたらした激変は、全く想定していなかった。このままでは『国技』は廃れる一方だ」と憤懣(ふんまん)をぶちまけた。

 復活興行に前国王

 ただ、潮流とは逆行するケースも現れている。フランスとの国境に近いバスク州のサンセバスチャンでは統一地方選によって、左派勢力に変わって保守勢力が市議会多数派となった。その結果、市議会が2年前に決議した「市内闘牛禁止令」が撤回され、闘牛が復活した。

 8月20日には復活興行の第一弾が行われ、闘牛好きで知られるフアン・カルロス前国王(77)も臨席。前国王は闘牛復活を祝う観衆による万雷の拍手の中、「闘牛はスペインの資産だ。みんなで支えていかなくてはならない」と高らかに宣言した。

 スペインの闘牛は、密接不可分となった政治に左右される時代に入ったといえる。(SANKEI EXPRESS)

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