セシルを殺した米歯科医師、狩猟は違法と認められず、訴追逃れる

2015.10.17 08:20

 南アフリカ南部のジンバブエで7月、人気者の雄ライオン「セシル」が、米歯科医師に“密猟”された問題が大きく動いた。ジンバブエ政府が、セシルを撃ち殺したウォルター・パーマー氏(55)を訴追しない方針を固めたのだ。調査の結果、法的問題がなかったためだが、“無罪”裁定に収まらないのが動物愛護団体。パーマー氏への抗議活動は今も続き、米国で訴追すべきだ、という声も日増しに大きくなり、セシル騒動は、まだまだ尾を引きそうだ。

 ハンターとして入国認めず

 ロイター通信やフランス通信(AFP)、米公共ラジオ(NPR)などによると、ジンバブエのオッパ・ムチングリ環境相(56)は、セシルが撃ち殺された直後から、米国にパーマー氏の身柄引き渡しを求めるなど、強硬な姿勢をみせていた。

 しかし、先ごろ記者団に「警察や検察当局と調査した結果、パーマー氏は必要書類を全て準備して入国したことが判明した」と説明。狩猟に必要な書類もそろっており、違法な点がなかったため、訴追は見送り、いかなる法的措置も取らない考えを示した。そのうえで、観光客としての入国は今後も歓迎するが、「ハンターとしての入国は認めない」と述べた。

 パーマー氏は今年7月、5万5000ドル(約654万円)を支払い、現地のベテランガイド、セオ・ブロンコスト被告が手ほどきをする狩猟ツアーに参加。特徴的な黒いたてがみを持つ「セシル」を、ワンゲ国立公園の外におびき寄せ、弓矢で仕留め、頭部を切り落としていた。

 ブロンコスト被告ともう一人のガイドは「違法な狩猟を止められなかった」として訴追されたが、パーマー氏は「今回の狩猟は合法だと思っていた。セシルが有名なライオンだとは知らなかった」と釈明していた。

 しかし、(1)セシルが有名なライオンだった(2)英オックスフォード大が研究の一環で追跡用の首輪を付けていた(3)仕留め方が卑劣で残虐だった-ことが判明するにつれ、世界中から非難の声が殺到。米ミネソタ州にあるパーマー氏の歯科医院前では、連日激しい抗議デモが続き、8月1日夜には、米ニューヨークの摩天楼・エンパイアステートビルにセシルの姿を映し出す抗議活動も起きた。

 騒動に驚き、数週間にわたって雲隠れを続けたパーマー氏は、9月初めに病院に戻り、歯科医院を再開したが、地元紙に「妻と娘がネット上で脅迫されるなどひどい目に遭った」と苦しい心の内を吐露した。

 保護団体、米で裁判狙う

 訴追された2人の現地ガイドは、有罪になると最高で懲役15年となるが、パーマー氏は“無罪放免”。この格差に大きな反発が起きている。

 地元の野生動物保護団体「ジンバブエ保護タスクフォース」のトップ、ジョニー・ロドリゲス氏は、ロイター通信などに「真相は、法律が壊れているということだ」と怒りをあらわにし、「われわれは、彼を処罰するために何ができるかを確認するため、米で支援者を募っている」と、パーマー氏を米国内で訴追する検討を始めたという。何が何でも、パーマー氏に罪を償わせる構えだ。米魚類野生生物局も、セシルが撃ち殺された件を調査しているという。

 とはいえ、国際動物福祉基金(IFAW)の北米地区責任者、ジェフ・フロッケン氏はNPRに「何百人もの米国人が毎年、娯楽のためにライオンなど(野生動物を)殺している。パーマー氏が訴追されなかったことは、驚くに値しない」と冷静に分析した。(SANKEI EXPRESS)

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