クリスマスビール 待望の解禁 デンマーク

2015.11.22 10:00

 【Viva!ヨーロッパ】

 もう今年も残すところ1カ月余り。デンマークでは年間最大の行事、クリスマスを前に、日が短くなるのと反比例して街の装いがにぎやかになってくる。そこに、左党お待ちかねのクリスマスビールが登場し、胃の腑(ふ)を刺激しながら人々をクリスマスまで鼓舞し続けるのがデンマークの伝統となっている。

 甘く濃厚で度数高め

 デンマーク語でクリスマスは「Jul(ユール)」。クリスマスビールは「Julebryg(ユールブリュック)」と呼ばれる。デンマークでは中世からクリスマスシーズンには、この時期だけのこってりしたごちそうに合う特別ビールが飲まれてきた。そのほか、デンマークの伝統的なクリスマス料理であるライスプディングに合う度数が低い甘めの白ビールも飲まれてきた。

 20世紀に入って商業が盛んになってくるとこうした伝統は変化していった。1905年にクリスマスと並ぶ年中行事であるイースターに合わせた度数が高いイースタービールが売り出され、国民の間に浸透していった。一方でクリスマスビールが初めて売り出されたのは1958年と少々時間がかかった。

 しかし、1981年には大手ビール会社「カールスバーグ」が「ツボルグ」ブランドで、クリスマスビールのPR映画を製作して全国に広め、イースタービールをしのぐ勢いで社会に定着していった。

 一般的にクリスマスビールは、甘くて濃厚な味わいで、度数は5~7%と高め。醸造会社によって特色を出しており、シナモン、トウモロコシ、デンマーク人が大好きなリコリス(スペインカンゾウ)などのエキスが入っているものもある。

 11月の第1金曜日

 ツボルグは1990年に、自社のクリスマスビールの解禁日を「Jul」の頭文字から「J-day」と称し、11月の第2水曜日23時59分と設定した。しかし、解禁直後に飲み過ぎて翌日の学校の授業に出てこない学生が続出。そのため学校側はツボルグに変更を要請し、1999年に解禁日は第1金曜日の20時59分に変更された。

 解禁される20時59分から21時59分までの1時間、ツボルグのクリスマスビールが飲み放題というサービスが全国のパブやレストランで行われており、左党にクリスマスシーズンの到来を知らせるイベントとなっている。

 ソリの鈴の音が鳴る

 ということで、筆者も11月6日の解禁日にクリスマスを感じに居住地であるボーゲンセのパブに行ってみた。

 20時59分の解禁前からパブには、その瞬間を待ちわびる客が店内にひしめき合う。時刻になると店内に流れていた音楽が「ジングルベル」に変わった。それを合図に、客はプラスチックコップに注がれたビールをカウンターから次々と受け取り、シーズン最初の甘露を胃に流しこんで目をうっとりさせていた。

 筆者も負けじと一杯。ほのかな甘みを帯びた濃厚な味わい。口に含んだ瞬間、ソリの鈴の音が頭の中に鳴り始めた。(国民高等学校「日欧文化交流学院」(デンマーク名=ノアフュンス・フォルケホイスコーレ)学院長 銭本隆行、写真も/SANKEI EXPRESS)

 ■クリスマス料理 デンマークでは、ローストポーク、ローストダック、甘く味付けしたジャガイモ、ライスプディングなどが典型的なクリスマス料理。焼かれた肉から滴り落ちた脂をソースに使うなどこってりしたものが多く、味負けしない濃厚なクリスマスビールは相性がいい。

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