北の大地で雪上ドライブ! レクサスと過ごす極上のクルマ旅

 

 真っ白な雪に覆われた北の大地に、野太いエンジン音が響き渡る。「ブウォォォーン、ブウォン、ブウォン」。プロドライバーが運転する青色に輝くクルマが、一瞬にして目の前を走り去っていく。そのあとを2台のSUVが激しく追走する。3台を追うように振り返ったが、分厚い雪煙に遮られて何も見えない-。ここは北海道帯広市に近い十勝スピードウェイ。トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」がメディアを招いて行った雪上試乗会での一コマだ。クルマの魅力と壮大な自然にたっぷり浸った2日間のツアーの様子をお届けする。(文・大竹信生)

 1月某日の朝5時。靴を履いていたら携帯電話が鳴った。「ご自宅の前に到着いたしました」。小さいボストンバッグを片手にマンションの1階に降りると、玄関前にレクサスの最高級セダン「LS」が待っていた。広々とした後部座席に納まり、用意されたミネラルウォーターを口にすると、クルマは羽田空港に向けて走り出した。試乗会のことを想像すると興奮のあまり寝付けず、睡眠時間はたったの3時間。まだかなり眠たいが、待望の一日がついにスタートした。

 それから数時間後。サーキットの真上を通過した飛行機は、9時前にとかち帯広空港に到着した。気温はマイナス15度らしいが、ダウンジャケットの前を閉めなくても寒さはそれほど感じない。空港の外にはお迎えのレクサス「RX」がずらりと並んでいる。銀世界にはSUVがお似合いだ。どこまでも続く一本道を30分ほど走ると、サーキットが見えてきた。

 コース脇のティールームでバイキング形式の朝食をとりながら、試乗会の説明を受ける。今回用意された走行体験は3タイプ。雪上につくったコースを走る「圧雪路」、ミラーバーンと呼ばれる氷の上を旋回する「氷盤路」、そして、雪に覆われたデコボコ道を走る「特設オフロード」だ。

 スポーツセダンの「GS F」で“爆走”

 さっそく四輪駆動のRXに乗り込み「圧雪路」に挑戦する。真っ白のコースはかなり硬め。路面からの照り返しが眩しい。サングラスはマストアイテムだ。インストラクターの指示を聞きながら、直線で時速60キロまで出してみるが、タイヤの空転を抑えるトラクションコントロール(TRC)が効いているので、タイヤは滑ることなく真っ直ぐ進む。コーナーの手前では焦らず早めにブレーキング。ゆっくり丁寧にハンドルを切ると、横滑り防止機能(VSC)のアシストもあり、イメージどおりに曲線をなぞっていく。試しに急ブレーキをかけてみても、車体は左右に振られることなく、「ガガガガ」と雪に刻み込むような音を立てながら停止。雪上でも問題なく「走る・曲がる・止まる」を可能にする四駆SUVの運動性能と安定感は実に素晴らしい。

 では、これら制御システムをオフにしたらどうなるのか。さすがにアクセルをガツンと踏み込めばホイールスピンを起こすが、クルマが制御不能に陥るようなことはない。基本操作を忠実に行えば、ちゃんとコントロールは可能だ。もちろん、安全装置を作動させた時とは安心感がまるで違うが。

 次はスポーツセダンの「GS F」にチェンジ。477馬力を誇る5リッターV8エンジンを積むFR(後輪駆動)マシンで「圧雪路」に挑む。はっきり言って無謀に思える企画だが、何でもアリなところが“驚き”を追求するレクサスらしい。アクセルをちょっと踏み込むだけで、雪道とは完全にミスマッチな「ブォン」という低いエンジン音が唸る。スピードに乗るとテールが左右に振られ、カーブに入ると意図しないドリフトが勝手に始まる。まるでラリーだ。公道を安全に走るなら間違いなく四駆のRXを選ぶが、どっちがエキサイティングかと聞かれればGS F。自動車メーカーが主催するイベントでなければ、こんな行為を安全に楽しむことはまずできない。

 「氷盤路」でドリフトを楽しむ

 その後、舞台を「氷盤路」に移してコンパクトSUVの「NX」に乗り込み、パイロンの周りをグルグルと旋回する。TRCとVSCが効いた状態だと、電子制御でエンジンと四輪の回転を抑えるため、アクセルをベタ踏みしても滑ることはない。その代わりに車両はアンダーステアとなり、パイロンを中心に描く円が大きく外側に膨らんでいく。それにしても、電子制御があればこんなにもスピンしないものなんだと感心する。

 試しにGS Fも走らせてみた。すべての制御装置を解除する。アクセルを踏んだとたんにクルリ。こりゃ無理だわ…。むしろ高速スピンが楽しすぎるので、「こんな経験もなかなかできない」と開き直り、インストラクターに怒られない程度にエンジンを回してみたりする。

 最後のアトラクションは「特設オフロード」。コース内に設けた急な坂道や角度のきついバンクを、最上級SUVの「LX」で走破する。ハンドルを握るのは、30年にわたってハイラックスやランドクルーザーを開発し、LXの開発責任者も務める小鑓貞嘉氏だ。凹凸の激しい悪路を軽々と乗り越え、下が見えない急斜面を降りていく。さらに、傾斜角度30度のバンクに片側の車輪を乗せ、斜めに傾いた状態で走行する。LXはなんと傾斜角度44度までなら、横倒しせずに走ることができるという。普段の生活では考えられないシチュエーションだ。だんだん目が慣れてくると、テクニックもないくせにハンドルを握りたくなってしまった。

 試乗体験の最後にサプライズ

 これで3つの試乗体験を終えたが、最後にサプライズが待っていた。レクサスのCMで数々の超絶テクニックを披露しているプロドライバーの木下隆之氏が運転するGS Fに同乗できるイベントだという。偶然にも、前の日に「木下さんのようにテールを流しながらコーナーを回ってみたい」などと同僚たちに話していたばかり。同乗どころか木下氏が来ることすら知らなかったのだ。これはラッキー。

 青色に輝くGS Fで雪上を駆け抜ける木下氏の走りは、まるで異次元の世界。デモ走行で雪煙を巻き上げながら、マシンをスライドさせてコーナーを旋回する。「早く乗ってみたい」-。だが、木下氏のマシンに乗れるのはわずか数名。「ここはフェアに」ということで、大人たちのジャンケン大会が始まった。そして、ついに残り1枠をかけた最後の勝負。チョキに賭けてみる。「最初はグー、ジャーンケーン……よっしゃ、勝った!」。なんとか滑り込みで、木下氏の真後ろに座ることができた。

 期待と不安が入り混じる中、いざ発進。ハイパワーのマシンはどんどん加速すると、猛スピードで最初のコーナーへ突入した。「この人、正気か!」。進行方向とは逆にハンドルを切ってカウンターをあてる。カーブを駆け抜けるというよりも“滑り抜ける”といった感じだ。ちなみに木下氏が操るのは、制御装置をすべて解除したFR車…。直線では容赦なく飛ばす。「一体何キロ出ているんだろう。メーターが見えない!」。完全な未体験ゾーンに突入すると、怖さを通り越してなぜか笑いが止まらない。まるで雪の中をジェットコースターで走っているようだった。これははっきり言ってエキサイティングだ。

 クルマから降りると、隣に座っていた記者が教えてくれた。「直線で136キロ出ていましたよ」。唖然とした。やっぱりこのイベントはクレイジーだ。これで本当にすべての試乗体験が終了。本音を言えば「まだまだ走り足りない」。後ろ髪を引かれる思いで、移動用のバスに乗り込んだ。

 夜は美味しいディナーを囲みながら懇親会

 レクサスのイベントはこれで終わりではない。次の目的地は帯広市にあるミシュラン二つ星の日本料理「八寸」。美味しい食事に舌鼓を打ちながら、NX開発責任者の加藤武明氏たちとの交流を楽しんだ。エンジニアの話を直接聞ける時間はとても貴重だ。

 再びバスに乗り込み、宿泊地の「フラノ寶亭留(ホテル)」に移動。車窓から景色を眺めていたら、幸運にもキタキツネを見つけることができた。さらに走ると、今度は深い雪に埋もれないよう必死に飛び跳ねるエゾシカを発見。退屈になりがちなバスの中でも、しっかりと北海道の大自然を満喫することができた。

 バスは2時間ほど走ると富良野のホテルに到着。40平米の部屋はクイーンサイズのベッドが2つに、ジャグジー付きの丸型バスを備えている。男一人で泊まるには実にもったいない…などと考えてしまうほどキレイでゆったりできる場所だ。だからといって、男二人の相部屋は勘弁だが。

 夜は美味しいディナーを囲みながらの懇親会。RX開発責任者の大野貴明氏から「どのイベントが楽しかったですか」と聞かれた。「大変言いにくいのですが、GS Fで走った圧雪路です!」と正直に答えると、大野氏は「まあ、普通そうですよね」と苦笑い。テーブルを囲む同席者たちから自然と大きな笑いが起こった。その後もお酒を飲みながらクルマ談義に花を咲かせてツアー初日を終了した。

 眠気が一気に吹き飛ぶパノラミックビュー

 翌朝、爆睡から目を覚まして部屋の外を見ると、眠気が一気に吹き飛ぶようなパノラミックな銀世界が広がっていた。遠くのほうにエゾシカの群れが見える。外気はマイナス25度。目の前にそびえる大雪山系の山々が美しい。朝食をとり、集合時間までちょっと外を散策してみた。青い空と白樺のコントラストが絶妙だ。前方からクロスカントリースキーを楽しむ欧米人のグループがやってきた。「オハヨーゴザイマース!」。パウダースノーの丘の上を滑るのはさぞかし気持ちいいだろう。あとから聞いた話だが、この日の朝はダイヤモンドダストがあったそうだ。もっと早起きしていれば…残念。

 楽しかった北海道の旅ももうすぐ終わり。ベタだが、旭川空港でお土産の「白い恋人」とルタオの「ドゥーブルフロマージュ」を買って飛行機に乗り込む。強い向かい風の中、羽田に到着すると、空港の外で待機していたお迎えのLSに乗り込んだ。慣れ親しんだ東京の景色を見ていたら「ああ、もう少し北海道にいたかったなあ」などとしんみりしてしまった。

 クルマで思いっきり遊んで、美味しいものを満足するまで食べる。どこまでも続く絶景を眺めながら、キタキツネとの遭遇に心を躍らせる。そして、新しい出会いを楽しみ親睦を深める。実に刺激的で充実感のある2日間だった。これはただの試乗会じゃない。レクサスと一緒にひとつの贅沢なライフスタイルを共有する旅だったのだ。

 それにしても、やっぱりクルマのある生活っていいもんだ。でも、ちょっとだけLXを運転してみたかったなあ…。