キタに現れた「大ぴちょんくん」秘話 ライバルはもちろん道頓堀の「グリコ」

 

 空調世界大手のダイキン工業(大阪市北区)の人気キャラクター「ぴちょんくん」をモチーフにした巨大看板が、JR大阪駅近くのビル屋上に現れた。その名も「大(だい)ぴちょんくん」。高さ約13メートル、幅約11メートルで、発光ダイオード(LED)を使用して赤や白などカラフルに変化するなどさまざまな仕掛けが施されている。関係者は「キタの新たなランドマークにしたい」と話し、ミナミなどで派手さを競う“名物看板戦争”にも名乗りを上げる意気込みを見せている。ライバルはもちろん、道頓堀の「グリコ看板」だ。(芦田彩)

 気温、湿度のほか花粉やPM2・5も計測

 大阪市北区のシログチビル屋上に新たに設置された看板は、空気をテーマに大ぴちょんくんが変化していくのが特徴だ。

 温度と湿度に応じて、「るんるんブルー」「じりじりレッド」など9色に変化する「空気色(きゅうしょく)ぴちょんくん」のほか、看板に設置されている百葉箱センサーで計測した気温と湿度の実測値が電光掲示板に表示される。

 また、空気中に飛散している花粉やPM2・5も計測しており、空気中の濃度が高くなれば、ぴちょんくんがマスクをするなどして注意を呼びかけるようになっている。夏になれば、ぴちょんくんの頬が赤く染まり、汗を流しながら熱中症の注意を呼びかける。

 このほかにも、目がきょろきょろと動くほか、「おはよう!」「Beautiful Cherry Blossoms(サクラがきれい)」などと日本語や英語で話しかけるなど、さまざまな仕掛けが施されており、通行人にシャッターチャンスを告げる“サービスタイム”も。

 「空気の看板」と題した大ぴちょんくん設置を手がけたのは、「看板娘」と呼ばれるダイキン工業の女性社員たちだ。平成22年にJR大阪駅が改装され、以前から設置されていた同社の看板が同駅からよく見通せるように。そこで、従来の企業ロゴなどだけでなく、新たな看板を作ることになったという。

 「ぴちょんくん」は有名なのに…

 「ぴちょんくんの存在は多くの人が知っているのに、自分が勤めている会社のことはあまり知られていないことが気づいたことがきっかけです」

 看板娘の一人で、現在プロジェクトリーダーを務める豊田綾子さん(37)は振り返る。2児の母でもある豊田さんは育児休暇中、ママ友から仕事について聞かれたことがあった。企業名を教えると、「ダイキンって何?」との答えが返ってきてショックを受けたという。

 ぴちょんくんは平成12年、同社の家庭用エアコン「うるるとさらら」のマスコットキャラクターとして誕生した。ぐうたらでボーッとしているキャラクター性に女性たちから「かわいい」「癒やされる」との声があがり、一躍、人気者に。現在でも癒やし系キャラクターの先駆け的な存在として、企業系キャラでは絶大な人気と知名度を誇っているが、実はダイキン工業の企業イメージと必ずしも直結していないことに気づいた。

 ぴちょんくんを有効活用した看板にする方針は固まったが、その際に同社の役員会議で厳しい条件がつけつけられた。

 「ただかわいい、面白いだけではダメ。空調メーカーとして意味のある看板でないといけない」

 そこで、ぴちょんくんを通じて、普段は意識することのない空気に関心を持ってもらえる看板にしようと考案した。

 ただ「目立ちたい」だけではダメ

 看板製作にあたって、最も意識したのが、ミナミのランドマークとして親しまれている道頓堀の「グリコ看板」だった。グリコ看板は昭和10年に設置され、80年以上もの歴史を誇る。現在は6代目が道頓堀川を照らしている。

 豊田さんらは昨年、江崎グリコ(大阪市西淀川区)を2回にわたって訪問し、街で愛されるための取り組みなどについてアドバイスを受けた。「ただ目立ちたいだけではダメだということを学びました。企業としてのメッセージをきちんと伝えることの必要を感じましたね」と振り返る。

 看板はグリコ看板も手がけた老舗メーカーに発注し、広島県内の工場で製作。今年3月16日の点灯式でお披露目された。

 ゲストとして出席したぴちょんくんファンなどの小中学生が点灯ボタンを押すと、巨大看板が鮮やかな水色に輝いた。さっそく目が左右に動きだすと、通行人や見物客らが歓声をあげた。

 JR大阪駅からだけでなく、「HEP FIVE」など大型商業施設の周辺からでもよく見え、阪急グランドビルのレストランなどからでも確認できるという。

 大阪の名物看板といえば、グリコ看板を筆頭に、くいだおれ人形、「かに道楽」のカニ看板などミナミに集中。関連グッズ類なども大阪土産として人気となっている。そんななか、キタに現れた「大ぴちょんくん」の巨大看板はひときわ異彩を放っている。

 豊田さんは「将来は、グリコのように大阪のランドマーク的な存在になってほしい」と期待を込める。果たして、同社の思いが現実となる日は来るか-。