私事で恐縮ですが、5月より大阪勤務となりました。当面の間、ここ大阪の地より西日本の風景をバックに、「試乗インプレ」をお送りいたします。なお、大竹記者執筆分は変わらず東京からの発信です。引き続きご愛読よろしくお願い申し上げます。さて、ここのところ、ミニ・クラブマン、アルファロメオ・ジュリエッタと、前後編で延べ4回、欧州製ハッチバックの試乗が続いた。いずれも、国産車でいうとトヨタ・プリウスなどが分類されるCセグメント(以下、Cセグ)というクラスの車種だ。ドイツ、イタリアと来たらやはりフランスは外せない…ということで、今回はフランス製Cセグハッチのプジョー・308を取り上げる。(文と写真:Web編集室 小島純一)
日本で不人気のCセグ、欧州で根強い人気のワケ
Cセグは国内市場では軽自動車やミニバンに押されて、いま一つ人気車種が育ちにくいクラスになっている。ところが、欧州では販売されている車種が最も多い、全メーカーのラインナップの中核をなすクラスである。
その人気の理由は何と言ってもバランスの良さだろう。サイズも動力性能も普通のユーザーにとって扱いやすく、下駄がわりにもロングツーリングにも使えて価格もまずまず。悩んだらコレにしとけ、というド定番なわけだ。
日本でも、かつての定番“国民車”であったトヨタ・カローラや日産・サニー、ホンダ・シビック、マツダ・ファミリアなどはみんなCセグだった。現在でもトヨタ・オーリス、マツダ・アクセラ、スバル・インプレッサなどがこのクラスに該当するが、もはや新定番“国民車”と言わざるを得ないプリウスを除けば、いずれもヒットしているとは言いがたく、そもそも販売されている車種が少ない。
同じ専有面積なら背を高くしたほうが売れる…各社のラインナップを見ていると、マツダとスバル以外のメーカーはどうもそういう考えのようである。背の高い四角いクルマを欲しがる国内ユーザーの心情については、VW・ゴルフ トゥーランの試乗記事でも少し触れたけれど、移動する部屋という価値観だけではやはり寂しいし、もったいない。やはりクルマの魅力とは、原初的な移動すること自体の楽しさ、自在に操る楽しさがあってこそ。
Cセグが欧州で人気を保っているポイントはバランスの良さだけではなく、挙動が自然で、クルマらしい走りの楽しさを味わえることも大きな理由ではないかと思う。欧州のユーザーの8割以上が依然としてマニュアルトランスミッション(MT)車を選んでいるのも、運転の楽しさを重視しているからだろう。
新車で買える量産FFの中で最強のエンジン
すっかり前置きが長くなったが、そんな欧州Cセグの底力をこれでもかと見せつけられたのが今回試乗した308 GTiだった。
GTiは、ベース車両の308にプジョーのピュアスポーツモデル、RCZ R譲りのターボ付き1.6リッター直列4気筒エンジンを6速のマニュアルミッションと組み合わせ、専用にチューニングしたサスペンションと扁平率35の極太タイヤを履かせたホットハッチだ。パワーとトルクは270馬力、33.7kgf・mと、とても1.6リッターエンジンとは思えないスペック。
市販されている現行の前輪駆動車(FF)の中ではすでに完売したホンダ・シビック タイプRの310馬力に次ぐ性能である。つまり、いま新車で買える量産FFの中で最高出力のエンジンなのだ。この下には、いずれも265馬力を発生するエンジンを搭載したルノー・メガーヌ RSとVW・ゴルフ GTI クラブスポートが存在するが、この2台は一回り大きい2リッターエンジン。1.7リッターのエンジンを積むライバル、240馬力のアルファロメオ・ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデとは30馬力もの差をつけており、気筒当たり、あるいはリッターあたりの馬力でも圧倒的な数値と言える。では、その走りから見ていこう。
パワー=正義を実感 扱いやすく、普段使いが楽しい
マニュアルミッションながら、低回転からトルクがたっぷりあり、ごく軽くアクセルを踏んでスッとクラッチをつないでやれば、難なく走り出す。クラッチがつながるタイミングも程良く、思いがけず空吹かしになったり、突然つながってギクシャクしたりするようなこともない。これならエンストの心配はないだろう。
ドライブモードはノーマルとスポール(スポートのフランス語読み)の2段階。プッシュスタートボタン横の「SPORT」ボタン長押しで、メーター表示が真っ赤に変わり、アクセルレスポンスとターボの過給圧が上がって、トルクも増幅されるが、街乗りならノーマルモードで十分以上。意識して少し強めにアクセルを踏むだけで、バックミラーに映った後続車がみるみる小さくなっていく。まったく気負うことなく車列の流れをリードできる。1.3トンの車重を単に動かすだけなら、270馬力、33.7kgf・mは明らかにオーバースペックだけれど、結果的に街乗りでの加速・巡行時の余裕を生んでもいるわけで、やはり「パワーは正義だ」と思わされる。
相性抜群 MT+電磁式パーキングブレーキ
街乗りで特筆すべきは、電磁式パーキングブレーキ。AT車なら、この連載で取り上げたクルマの中にも装備されていたものがあるが、MT車との組み合わせは初めてだ。これが思いのほか相性が良かった。
赤信号で停車し、パーキングブレーキをオン。ギアをニュートラルに入れて、クラッチを離すと自動でアイドリングストップになる。信号が青になり、クラッチを踏むと自動でエンジンがかかり、アクセルを踏み込んでクラッチをつないだ瞬間にパーキングブレーキは自動で解除される。文章で書くと面倒くさそうに見えるが、実際にやってみるとごく自然な一連の動作であり、このブレーキの自動解除機能はMT車でこそありがたみが感じられる。
一番便利なのは言うまでもなく坂道発進の時で、アクセルとクラッチ操作だけで自然に発進できるのはMTに抵抗のある人にとっても嬉しい機能だろう。そして、坂道発進だけでなく、信号待ちや渋滞時もペダルから両足を離せるので、実は平坦な道路でも楽ができるのだ。レバー式や足踏み式のパーキングブレーキのAT車より、個人的にはこちらの方が楽だし、小気味よく決まるシフトが気分良く、街乗り主体であっても積極的にMT車を選びたくなる。ほんの少しヨーロッパの人の気持ちがわかったような気がした。
街乗りでは硬い乗り心地 しかし山坂道では…
街乗りで低回転域を使っている時、エンジン音はごく静かで気にならないレベル。遮音がよく効いていて、並んで走るほかのクルマの音もわずかに聞こえる程度。しかしながら、タイヤからのロードノイズは大きめで、道路の継ぎ目や段差を乗り越えた時の突き上げも強め。基本的な遮音性の高さから察するに、これは低扁平タイヤの弊害と思われる。より幅の細いコンフォート志向のタイヤを装備した標準グレードなら、かなり静かで乗り心地もいいはずで、ハイパフォーマンスとトレードオフされた部分と言える。
高速道路に入り、追い越し車線で高回転域まで回すと、スポーティーなエンジン音が気持ちいい。アクセルを強めに踏み込むと、タービンの回るヒューンという金属音が、シフトアップでアクセルを戻すとシュパーッと過給圧の解放音が聞こえ、コレコレ!と思わず頬が緩む。依然ノーマルモードのままで走り続けるが、出力特性にまったく不満は出ない。アクセル操作だけで追い越し加速も思いのままだ。
いよいよ山坂道へ。関西で「聖地」と誉れ高い芦有ドライブウェイは、よく整備された路面と急勾配に小半径カーブが連なる絶好の“テストコース”だ。ここに来て、308 GTiはようやく隠していた牙を剥き出した。一般道で硬いと感じた乗り心地は抜群の安定感を生み、直進ではさほど感じなかった剛性感がグッと前面に出てくる。低扁平のスポーツタイヤが路面をしっかり掴んでいる感触がハンドルに伝わってきて、操舵に対し忠実に曲がっていく足回りが実に頼もしい。スピードを上げていくにつれ、FFっぽさが薄れていくのも面白かった。
ブレーキの効きも非常に良く、安心してスピードコントロールができる。それでいて突然ガツンと効くようなシビアな感じはなく、扱いやすさも兼ね備えている。こういった素直な操縦性は、穏やかに一般道を走っているときにもさりげなく発揮されているはずで、欧州Cセグの熟成ぶりが窺える。
あり余るパワー 走りながらホイールスピン
お待ちかね本日のメインイベント、スポールモードの味見に移ろう。結論から言うと、このモード、公道では完全に持て余す。
加速が鋭すぎて、あっという間に制限速度に達してしまうからだ。高回転を保って、急激な加減速を繰り返すようなこのモード本来の走り方は、公道でやってもストレスがたまるばかり。山坂道でかろうじてその片鱗は感じられたかな、というほどの奥深さを持っている。
しかも単に加速が鋭いというだけでなく、クラッチをつなぐタイミングよりもアクセル操作に対するエンジンのレスポンスの方が恐ろしく速く、思いのほか回転数が上がりすぎてクラッチをつないだ瞬間に走りながらホイールスピンしてしまったほどだ。この速すぎるレスポンスには1日乗っていただけでは慣れることができず、消化不良なまま試乗を終えたのは心残りだった。今になって思えば、クラッチをつなぐタイミングをもっと早くすればちょうど良かったのだろう。スポールモードの挙動は完全にサーキット基準でチューニングされていると思われる。コンマ1秒を争う世界で、瞬時に行われるクラッチ&シフト操作に対応するためのレスポンス強化と考えると納得がいく。もしもう一度試乗する機会があれば、次はぜひサーキットを走ってみたい。
6速ミッションはエコ走行のためではない
ミッションの6速マニュアルは最上段の6速で時速100キロ巡行時に回転数が2,000オーバーと、ギア比は低めだ。
通常、6速ミッションの変速比は4速あたりをほぼ1:1に設定、5速から上をオーバードライブとし、最上段である6速の変速比は1:0.6台で高速巡行時の燃費を稼ぐことが多い。以前取り上げたベンツ・GLCの9段ATなどは、高速道路での追い越し時に一瞬法定速度を超えるような場面でないと9速に入らなかったくらいだ。
これに対し、308 GTiでは6速の変速比は1:0.744。以下全てのギアが低めの変速比であり、最も出力が大きくなる高回転を保ちながら、いかに速く目標スピードに達するかに重きを置いた設計になっている。結果として公称燃費はリッターあたり15キロ台にとどまっており、1.6リッターエンジンのクルマとしては低燃費とは言いがたい。高速道路の巡行が多くなるロングツーリングではあまり燃費を稼げないかもしれないが、街乗り主体の使い方であれば、低速トルクが太いことを生かして積極的に高いギアを使って低回転を保ち、エコランすることも可能だ。
もちろんこのクルマの真の速さを知りながら、街乗りだけで我慢できるユーザーがいれば、の話だが…。
前編はここまで。次回では内外装と使い勝手について掘り下げる。左ハンドル車ならではの、「小っ恥ずかしい体験談」も含め、どうぞお楽しみに。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■基本スペック
プジョー 308 GTi 270 by プジョー・スポール 6MT
全長/全幅/全高(m) 4.26/1.805/1.455
ホイールベース 2.62m
車両重量 1,320kg
乗車定員 5名
エンジン DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
総排気量 1.598L
駆動方式 前輪駆動
燃料タンク容量 66L
最高出力 200kW(270馬力)/6,000rpm
最大トルク 330N・m(33.7kgf・m)/1,900rpm
JC08モード燃費 15.5km/L
車両本体価格 436万円
■試乗車協力
大阪府大阪市西区北堀江1-19-8