【試乗インプレ】絶品エンジンと低重心設計が光るエントリースポーツ トヨタ・86(前編)

 
今回の主役と言ってもいい4気筒水平対向エンジン。すこぶる滑らかによく回って快感!トヨタ・86

 今回取り上げるのは、マイナーチェンジしたばかりのトヨタ・86。前編の今回は一般道、高速道路、山坂道の3場面でその走りに着目する。5月の大阪への転勤以来、私の担当分は関西圏で試乗を続けてきたが、諸事情あって東京出張のついでに東京-箱根間での試乗となったことをお断りしておく。(文と写真:Web編集室 小島純一)

 デビュー4年を迎えマイナーチェンジ

 86はトヨタがスバルと共同開発し2012年から販売している2ドアのスポーツクーペだ。生産はスバルが行っており、BRZは兄弟車となる。デビューから4年を迎えた今年の7月にマイナーチェンジが施されており、今回試乗したのはこの後期型の最上級グレード「GTリミテッド」。

 207馬力、21.6キロのトルクを発生する4気筒の水平対向エンジンで後輪を駆動。エンジンが前輪の軸より後方に配置されたいわゆるフロントミッドシップで、前後の重量配分は53:47、スーパースポーツ並みの低重心と、スポーツ走行に適した設計となっている。

 ターボなしで正解 雑味なく上質な自然吸気エンジン

 東京千代田区某所で試乗車を借り受け、まずは渋谷まで一般道を走ってみる。車庫から発進してすぐに気付くのはそのアクセルレスポンスの鋭さだ。

 ちょっと踏んだだけで、タコメーターは瞬時に3000回転あたりまで跳ね上がる。市街地で多用する発進時にクラッチをつなぐ2000回転くらいまでのアクセルワークはけっこうデリケートで、最初のうちはつま先に神経を集中しないと意図せず「ファア~ンッ」と吹け上がってしまう。しかしそこであわててアクセルを戻してしまうと今度は一気に回転が下がって、エンストしそうになる。と書くと乗りにくそうに思えるが、全然そんなことはなく、ものの1時間も運転していれば慣れるので心配することはない。

 市ヶ谷~麹町~四谷~赤坂見附~青山とアップダウンの多いルートを駆け抜けても、勾配でストレスを感じないのは、エンジンのレスポンスの良さと1.2トン台という軽量設計両方の恩恵だろう。

 試乗インプレで私が担当した車種としてはマツダ・ロードスター以来の自然吸気エンジン。リニアに出力が上がっていくのが、実に気持ちいい。信号待ちで先頭になった際、ちょっと強めに踏み込んでみると、2速のままあっという間に一般道の法定速度に達してしまう。無論、同じ排気量であれば実際の加速はやはりターボ付きのもののほうが速いだろうが、パワーが手の内にある感触が心地よく、これならターボなしで正解だと思える。

 回り方もとても滑らかで、直列4気筒と、直列6気筒の中間のようなフィーリング。雑味がなく、精密感、上質感が非常に高い。さすが長年スバル・インプレッサで揉まれ熟成してきたエンジンがベースになっているだけのことはある。このエンジンを味わうためだけに乗るのもアリだ。

 4000回転を超えたあたりから、「クォーン」と乾いたエンジン音がキャビンの中にも響いて、これまたたまらない。

 意外!乗り心地は乗用車レベル

 専用設計の6速ミッションは、シフトチェンジがガッキンガッキン決まって剛性感が非常に高く、エンジンと並んで精密感がビシビシ伝わってくるが、ロードスターやスズキ・アルト ワークスのミッションに比べると感触は今一歩。あの軽く押してやるとヌルッと吸い込まれていく感じに乏しいのが惜しいところ。

 乗り心地についてはスポーツカーということであまり期待していなかったのだが、なかなかどうしてこれが悪くない。さすがに高級車並みとはいかないが、わざと荒れた路面を乗り越えても、突き上げはマイルドだし、細かい凹凸ならほとんど吸収してしまい、振動やタイヤからのロードノイズも抑えられている。これなら普段使いの乗用車として十分通用する。

 86をファミリーカー候補として家族会議にかけても、机上で話しているだけでは承認を得られにくいと思うが、うまく口説いて一緒に試乗してもらえれば見方が変わるかもしれない。

 高速巡行がつまらないのにはワケがあった

 首都高速3号線経由で東名高速に入り一路箱根を目指す。100キロ巡航時の回転数は6速で2600~2700回転あたりと、スポーツカーらしくローギアードの設定。2000回転以下で巡航できる乗用車のように静かというわけにはいかないが、遮音がしっかり効いており、車内での会話は普通の音量で大丈夫。直進安定性はさほど強く感じない半面、車線変更は気持ちいい。ロールもなく、あたかも横にスライドするかのようにすばやく行えて、低重心設計の恩恵を感じることができる。小径ハンドルにキビキビと反応する様があまりに楽しくて、意味もなく車線変更したくなる。もちろんしませんけれども。

 だから、実は高速道路の巡行はそれほど楽しくはない。と言うか、「ハンドルをもっと切れる道に早くたどり着きたい」という思いがどんどん募ってくるのである。誠に困ったクルマだ。もちろんいい意味で。

 ビバ!低重心! ハンドル切ってこそのクルマ

 小田原厚木道路から箱根ターンパイクへ。いよいよメインイベントの山坂道。半径の小さいカーブで低重心の威力がいかんなく発揮される。ロールをほとんど感じさせず、狙ったラインをきれいに曲がっていく。2+2で前席と後輪の間に後席が挟まっているから、旋回感も乗用車的で、マツダ・ロードスターのような独特の感覚がなく、4ドア車からの乗り換えでも違和感がないはず。ま、個人的にはロードスターの旋回感のほうが面白味があって好みだけれども。

 カーブ出口で少しアクセルを踏み過ぎてしまっても、トラクションコントロールが介入し、後輪から「ズリッ、ズリッ」という音と、ハンドルにも手応えが来て、何事もなかったかのように安全に駆け抜けることができる。

 ハンドルはクイック、手に伝わるロードインフォメーションも豊富で、ハンドルを切る角度と曲がっていく向きの相関がわかりやすく、安心してコーナーに入っていける。

 そしてブレーキがよく効く。一般道でソフトに踏んでいる分にはデリケートなところがなく扱いやすいが、いざコーナー手前でガツンと踏み込むと安全な速度まで一気に減速できる。もちろん姿勢の乱れも皆無。思わず「いいねぇ」とつぶやいてしまう。

 コンフォートタイヤが鳴かない絶妙バランス

 標準のタイヤは215/45R17と、Cセグメント相当のスポーツカーとしては決して扁平率が高くなく、銘柄もミシュランのコンフォート系とスポーツ性を削がれそうな組み合わせだが、タイヤが鳴き出す場面はほとんどなく、むしろ好マッチングとさえ感じられた。タイヤのグリップに頼らずとも低重心と重量配分、そして程良いパワーが絶妙にバランスしていることがうかがえる。

 このタイプのクルマで、燃費性能を気にするユーザーはあまり多くないだろうが、参考までに満タン法計測の数値を書いておくと、ちょうど300キロ走ってリッター当たり10.77キロ。これ、公称燃費のほぼ9掛けである。私が担当した試乗車の中で、ダントツに公称燃費との開きが少ないのは意外だった。そう言えばロードスターも実燃費が割と良かったような…。

 まさに80点のスポーツカー(褒め言葉です)

 個々の性能に突出している部分はないが、総じてバランスがよく、運転の巧拙にかかわらずドライバーを楽しませてくれる。車格もパワーもフォームファクターも異なるが、狙っているところはロードスターに非常に近いものだと思う。ロードスター同様、走りに焦点を絞って緻密に作り上げられたクルマであり、量産車でここまで煮詰めたクオリティを提示できることに、驚くほかない。

 サーキット志向で性能を限界まで使い切るようなユーザーには、標準仕様のままでは物足りない部分もあるのだろうが、私のような普通のクルマ好きにはこのくらいがちょうどいい。自動車愛好者の裾野を広げるには、あまり敷居を高くしないほうがいい、とトヨタは考えたのだろうし、私もそのコンセプトには共感する。

 80点主義と言われるトヨタだが、このクルマではそれがいい意味で作用しているように思う。

 次週、後編では内外装のデザインとパッケージングについてのインプレッションをお届けする。お楽しみに。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■基本スペック

トヨタ・86(後期型) 6MT

全長/全幅/全高(m) 4.24/1.775/1.32(アンテナ含む)

ホイールベース 2.57m

車両重量 1,240kg

乗車定員 4名

エンジン 水平対向4気筒 直噴DOHC

総排気量 1.998L

駆動方式 後輪駆動

燃料タンク容量 50L

最高出力 152kW(207馬力)/7,000rpm

最大トルク 212N・m(21.6kgf・m)/6,400rpm~6,600rpm

JC08モード燃費 11.8km/L

車両本体価格 325.08万円