【試乗インプレ】ルックスと空力性能に磨き、贅沢な室内空間 日産の新型「GT-R」(後編)

 
ほかのクルマにはない唯一無二のデザイン。これならひと目でGT-Rだとわかる

 日産自動車のスーパースポーツ「GT-R」が大幅改良を経て生まれ変わったのは前編でお伝えした通り。その驚異的な走行性能はすでにチェック済みだが、2017年モデルは内外装も大きく進化している。後編では外観やインテリアの雰囲気、空力パーツや使い勝手など、停止状態のマシンを調べていく。ついでに、試乗中に体験したGT-Rならではのエピソードも必読。それにしてもこのオレンジボディ、どこにいてもバリバリ目立ちます!(文・写真 大竹信生)

 異彩を放つ独特の存在感

 さっそく外装から見ていこう。GT-Rは大きなグリルが特徴的だが、2017年モデルは開口部をさらに20%ほど広げている。これは、馬力やトルクなど新型モデルの動力性能の向上に伴い、冷却性能を引き上げる必要があったためだ。ラジエーターに大量の走行風を取り込むとクーリング能力は上がるが、空力面に影響が出てくる。そこで、新型GT-Rはフロントやボディ側面にスポイラーなどの空力パーツを配することでエアロダイナミクスを改善し、整流効果やダウンフォース(車体を路面に押し付ける力)を高めている。また、エンジンフードにピシッと入る折り目は、従来モデルよりもはっきりとしている。これはボディ剛性の強化が目的だそうだ。

 次はサイドビューだ。運転席から後方に向かって落ちるルーフラインが非常に美しい。ここも後方ピラーに手を加えることで、乱流の発生を抑制している。ドアや窓などのディテールに直線とエッジ(角)を多用しており、シンプルでエレガントな印象。サイドスカートは全体のシルエットを引き締める。タイヤハウスにこもる熱を逃がす前輪後方のエアアウトレットや、空気抵抗を低減させる“埋め込み型”のドアハンドルは前期型から引き継いでいる。

 リヤのデザインは鍛え上げたアスリートのお尻のように肉厚で迫力満点だ。よく見ると、ボディ表面のプレス形状もこれまでとは異なる。4灯の丸形テールランプは“諸先輩”から継承するこのクルマのアイデンティティ。この丸形ライトに憧れてきた読者も多いのではないだろうか(筆者もその一人)。そして、このマシンを際立たせる最大の意匠の一つが「GT-R」のエンブレムだろう。子供のころに「あのスカイライン、GT-RじゃないのにGT-Rのエンブレムがくっついてるなー」なんて光景を何度も目にするほど、多くの人がいつかは手に入れることを夢見るシンボルマークだ。

 4本出しのチタン合金製マフラーや、そのマフラーを冷却するエアダクト、大きなリヤスポイラーも目を引く。スポイラーは高速走行時にダウンフォースと操縦安定性をもたらす、本格スポーツカーのマストアイテムだ。

 このように、GT-Rにはたくさんの空力パーツが取り付けてあるが、先述したように、これらは単なる飾りではない。もちろん見た目にも大きく貢献しているが、大前提として一つひとつのパーツに「整流」「ダウンフォース」「冷却」など機能的な意味があるのだ。

 海外ジャーナリストの中には「GT-Rは見た目がちょっと残念」といった意見もあるようだが、筆者はロボット/メカを思わせるような分厚い車体と直線美を意識した“日本らしい”外観が大好きだ。しかもロー&ワイドの迫力ボディ。「オレがGT-Rだ」と言わんばかりの強烈なキャラが立っていて、どのクルマとも類似しない、ただならぬ存在感を放っている。

 スピードメーターには要注意!?

 次にインテリアをチェックしよう。窓枠のないサッシュレスドアを開けて運転席に収まる。最低地上高110ミリ、全高1370ミリのローボディだが、乗り込む際のぎこちなさや窮屈さは感じない。

 GT-Rは内装も直線基調だ。ダッシュボードなどに高級本革のナッパレザーを贅沢に一枚使いするなど非常にファッショナブルで、高級感にも溢れている。「GT-R」のエンブレムがきらりと輝く本革巻きのハンドルを握ると気分も自然と引き締まる。

 職人による完全手縫いの超肉厚レザーシートは、事前にフィッティングでもしたかのように体の曲線になじむ。GT=グランツーリスモ(長距離走行に適した高性能車両)を名乗るGT-Rだからこそ、スーパースポーツなりに程よい柔らかさのある優しいシートに仕上がっている。しかも、体を動かす運転席とじっとする時間が長い助手席で、シートの硬さを変えるこだわりようだ。もちろんホールド感はバッチリ。体の背後から包み込むようにサポートしてくれる。

 速度メーターは時速340キロまで表示してある。写真を見ていただくとわかりやすいが、高速走行時の目安となる「100キロ」の目盛りが、アナログ時計でいう8時の位置にあるため、うっかりしているとすぐに法定速度を超えてしまいそうだ(筆者は普段は80~90キロでおとなしく走るのだが)。しかも最高速度は300キロ超だから、340キロのメーターは伊達じゃない。

 センターコンソールはカーボン素材を使用することで強度アップや軽量化を図っている。新型GT-Rは操作系の配置もよく考えられている。左ひざの横にあるエンジンボタンを押し、ギヤを入れてサイドブレーキを解除するといった左手の一連の動きが、奥から手前に向かってスムーズに行える設計だ。

 カーナビやオーディオは、シフトレバーの左側に置いたダイヤル式コントローラーで操作できる。8インチモニターはタッチ操作にも対応していて使い勝手はいい。アームレスト下にはUSB端子を2つ設置。スマートフォンをつなげば、車内のBOSE製スピーカーで音楽を楽しむこともできる。

 エアコンの直下には、サスペンションの味付けなど車両のセッティングを選択できるセットアップスイッチも配置している。ちょっと残念なことに、スイッチ類を押したときにもう少し高い質感が欲しいと感じたが、ナッパレザーや職人が仕立てた高級シート、カーボンコンソールの使用など至れり尽くせりのしつらえを前にすれば、以て瞑すべしだろう。

 居住性や実用性は?

 前席の居住性はかなり高い。現行型GT-R(R35)は重心を前輪車軸より後ろに置くフロントミッドシップを採用しているが、歴代モデルが採用してきた直6エンジンよりもコンパクトなV6エンジンにツインターボを組み合わせ、トランスミッションを車体後方に移すことで、足元にしっかりとスペースを確保している。頭上も広々としていて、身長172センチの筆者は圧迫感を全く感じなかった。逆に後席は大人がゆったりと座る余裕はない。スペック上は定員4名だが、基本的には2+2シーター。リヤはあくまでオマケと考えるのが無難だ。GT-Rとはそういうクルマ。ただ、もし誰かのGT-Rに同乗するチャンスがあれば「後席で体育座りしてでも数時間乗る価値はあるよ」とオススメしたい。

 トランクルームは深さも確保していて実用的な大きさ。大型のゴルフバッグが3つも入るそうだ。ちなみにGT-Rはパンクしてもしばらく安全に走行できるランフラットタイヤを履いており、スペアタイヤを積む必要がないので、トランクの容量アップと軽量化にも大きく貢献している。このほか車内にも大きめのドアポケットや小物入れなどの収納スペースを設けるなど、2名乗車なら普段使いがしやすい実用性を備えている。ただし、使い勝手に関して(1)コンビニやガソリンスタンドに行くときは縁石の段差に気を付けること(2)駐車場はセキュリティが充実したところを選ぶこと、が重要になる。

 目立っちゃってスミマセン

 それにしても、特別塗装のアルティメイトシャイニーオレンジはかなり派手なカラーだ。一歩間違えれば「あの色はイタいね」「頑張りすぎて空回り」なんて言われかねないが、GT-Rは不思議と上品な雰囲気を醸し出している。塗装料は32万4000円高とかなり値は張るが、「自分で買うなら思い切ってこの色だな」と素直に思えた。ただし、どこに行ってもメチャクチャ目立つことは覚悟したほうがいい。

 実際、信号待ちの間にふと視線を感じて助手席側を見ると、わざわざ店の外に出てきた床屋のおじちゃんがGT-Rをじっと見ていた。さらに店内のお客さんたちもこちらに視線を向けているのには思わず苦笑してしまった。

 大学周辺では最寄り駅まで列をなして歩く学生たちから、まるでレッドカーペットを闊歩する大物俳優のように熱視線を独り占めしてしまった(これが嬉しいか恥ずかしいかは人それぞれ。筆者は堂々と走ってみました)。

 GT-Rで自宅に戻ったときは、近所のママさんたちに囲まれちょっとした撮影会に。筆者が「GT-Rのこと知ってます?」と質問をすると、「クルマには詳しくないけれど、GT-Rは知ってます」「旦那が憧れていたクルマです」といった声が聞かれた。ママさんたちにも知られていて「カッコいい」「すごい」と超モテモテ。GT-Rのミニカーを持っているという男の子は、目をキラキラと輝かせながらオレンジ色の車体をじっと見つめている。せっかくなので、助手席に乗せてエンジンをかけてあげると大喜び。この子が将来買いたいクルマはもうGT-Rで決まりかな。

 最後に総評になるが、GT-Rを2日間にわたって試乗した感想は、「グランツーリスモ(GT)とレーシング(R)をバランスよく融合させている」ということ。スーパースポーツとしての驚異的な走行性能はもちろん、安心して長距離走行を楽しめる余裕も感じた。そして、「GT-Rは走っていても止まっていても、人々の視線を惹きつけるオーラがある」ということ。「GT-R」のエンブレムには、スカイライン時代から歴代のGT-Rが背負ってきた伝統と重みを感じた。ブランド力は一日で築くことはできない。GT-Rはサーキットでたくさん勝利し、数々の記録を残してきた。筆者は10年以上にわたる海外生活で、「GT-Rが大好きだ」「日本に行って買って帰りたいくらい」と話すスペイン人やイギリス人、中国人や韓国人をたくさん見てきた。こうした歴史の積み重ねや海を越えて獲得してきた名声があるからこそ、新型GT-Rからオーラを感じることができるのだろう。

 こうなると、東京モーターショー2015で展示された「ニッサン コンセプト 2020 ビジョン グランツーリスモ」の今後がどうしても気になってしまう。次期型GT-Rはこんな感じに仕上がるのだろうか。(写真参照)

 ちなみに20代の女性社員に「GT-R」と小型車「ノート」の写真を見せながら「ドライブに行くならどっち?」と尋ねたら、「安心して乗れそうなノートです」と即答されてしまった…。さすがの “絶対王者”も連戦連勝とはいかないようだ。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■主なスペック 日産GT-R プレミアム・エディション(試乗車)

全長×全幅×全高:4710×1895×1370ミリ

ホイールベース:2780ミリ

最低地上高:110ミリ

車両重量:1770キロ

エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ

総排気量:3.8リットル

最高出力:419kW(570ps)/6800rpm

最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300~5800rpm

トランスミッション:6速DCT

駆動方式:4輪駆動

タイヤサイズ:(前)255/40ZRF20 (後)285/35ZRF20

定員:4(2+2)名

燃料タンク容量:74リットル

燃料消費率(JC08モード):8.6キロ/リットル

ステアリング:右

車両本体価格:1170万5040円