【試乗インプレ】余裕の走りは軽からのステップアップに最適 ダイハツ・トール(前編)

 
奈良・若草山ドライブウェイの「大仏殿ビューポイント」にて。さすが大仏殿、700~800メートルほど離れていてもこの大きさで写る。ダイハツ・トール

 春の行楽シーズン真っただ中、桜の開花予想に心が躍る今日この頃。学生さんは春休み、仲間と連れ立ってのドライブが楽しい季節がやってきた。子供たちにお出かけをねだられているお父さんお母さんも多いことだろう。今回はそんな和気あいあいドライブにうってつけの新型車、ダイハツ・トールを取り上げる。運転が苦手なユーザーを支援する機能が充実した背高コンパクト、その走りはいかに。(文と写真:Web編集室 小島純一)

格上の車種をしのぐユーティリティーが売り

 ダイハツ・トールは、同社のブーン(トヨタ・パッソ)のプラットフォームをベースに、背の高いボディーを乗せ、広い室内と多彩なシートアレンジをセールスポイントとするコンパクトカーだ。

 親会社であるトヨタからはルーミーとタンク、同じくトヨタ系列となったスバルからはジャスティという名前でも併売されている。

 ブーンをベースとしていることから、車格的には以前この連載で取り上げたルノー・トゥインゴが属する欧州車のAセグメントに該当するが、トヨタ・ヴィッツや日産・マーチ、ホンダ・フィットなどが属する格上のBセグメントコンパクトカーをしのぐ居住性、積載性を持っている。これらユーティリティーに関しては、次回後編で詳しく解説するとして、今回は運転支援機能も含めたその走りにフォーカスしていこう。

乗り降りラクラク視界良し

 運転席のドアを開け乗り込むと、自然に腰かけた位置にちょうど座面がある。よじ登ったり、かがみこんだりせず、ごく自然な動作で乗り込むことができるのは、170センチ近いボディの高さのおかげでもある。

 シートポジションを調節してハンドルを握り、前を向くと、フロントウインドーが立っており、視界の上の方まで窓が広がっていて、特に上下方向の開放感が高い。

 ハンドルの調節は上下のみで、前後には動かないから、適切な運転姿勢を保とうとすると、自然と背もたれは立ち気味になる。

 シートは左右の張り出しが控え目な分乗り降りは非常にしやすい反面、サイドサポートがやや頼りなく感じられる。実サイズに対して小ぶりな印象だが、これはアップライトな乗車姿勢からくる感覚もあるだろう。クッションは柔らかめで座り心地は悪くないが、長距離ドライブだと姿勢が安定せずに疲れが出やすいかもしれない。

ターボは是非モノ 巡航も静かで快適

 試乗車に搭載されたエンジンは1リッター3気筒のターボ付き。アイドリングから低回転では非常に静かで3気筒で気になる振動もほとんど車内に伝わらないが、3千回転を超えたあたりから少し騒々しくなってくる。音の響きも官能的なものではないから、高回転を保って走る場面ではちょっと耳が疲れてしまう。

 ただ、ドアの開口面積が大きい(つまり隙間の総延長が長い)割には遮音性は高く、低回転を保ってゆったり走る分には不快感はない。クルマの性格から考えて、通常の使い方なら快適と言っていいレベルだろう。

 一般道、高速道路、山坂道といろいろ走ってみたが、どんな場面でもパワー、トルクともに不足は感じなかった。東京の首都高とよく似た阪神高速特有の短い合流路でも、慌てることなく速やかに必要なスピードに達してくれて安心感が高かったし、奈良の若草山ドライブウェイの急勾配もストレスなく登っていくことができた。

 後席にも人を乗せて荷物もたくさん、というシチュエーションでの使用が多そうなこのクルマにちょうどいいパワートレインだと思う。ターボなし仕様のグレードもあるが、がっつりファミリーカーとして活用したい向きには断然このターボ仕様がおすすめだ。

CVTは…う~ん

 変速装置は、国産の軽やコンパクトカーではもはやデフォルトとも言える無段変速のCVT。アクセルを踏み込むとまずエンジン音が高まり、少し遅れて加速が始まる。

 トールに限った話ではないのだが、CVT仕様車の、このクラッチが(CVTだから本当はクラッチはないのだけれど、イメージ的に)滑っている感じが何度乗っても馴染めない。アクセルを踏む時、後方へかかるGに備えて、こっちは微妙に身構えているのに、すぐには加速が始まらなくて「あれ?」と拍子抜けしてしまうのだ。クルマは操ったままに動いてほしい。やっぱりエンジン音と加速はシンクロして欲しいんだよなぁ。

 と落胆していると、ハンドルの「SPORTS」ボタンが目に入り、こいつを押してみる。すると走行モードが切り替わって、アクセル操作に対する変速レスポンスが素早くなり、加速に入るまでのタイムラグが気にならなくなった。おお!これだよ!もう常時SPORTSモードでいいじゃん。そう思ったのも束の間、SPORTSモードだと高回転維持のプログラムでシフトしてしまうので燃費が悪くなるし、巡航態勢でも3000回転あたりなのでうるさいしで、常時オンは現実的ではないと気づく。うーん、ノーマルモードでも変速のレスポンスだけはSPORTSに近づけてもらえるとちょうどいいんだが…。

乗り心地は悪くないが良くも悪くも「軽い」

 サスペンションは乗用車らしいソフトなもので、よく整備された路面なら多少の凹凸はきれいに吸収してくれる。乗り心地は悪くないのだが、接地感が薄くよくも悪くも「軽い」印象。ハンドルが軽いのも非力なドライバーが運転する可能性を考えると適切と思えるが、路面状況やタイヤの踏ん張り加減がハンドル越しにあまり伝わってこないのは、ドライバーとしては少し落ち着かない。まぁ、この部分は助手席や後席では気にならないかもしれない。

 試乗した日は幸いにも風が少なかったので、ボディーが横風にあおられるようなことはなかったが、大竹記者がホンダ・N-BOX試乗記で指摘しているように、このトールでも横風が強い日は背の高さが仇となってハンドルをとられることもあるだろう。

運転苦手でもバッチリサポートしまっせ!

 最小回転半径は4.6メートルで軽やコンパクトカーの標準的な数値。取り回しでありがたいのは、なんと言ってもボディーが四角いことだろう。特に、サイドとリアは窓の位置がそのまま車体の端と考えていいので、狭い場所に入っていくときにも不安が少ない。前方にはボンネットがあるが、シートポジション次第ではボンネットを視界に入れることもできるし、そもそもボンネット自体が短くて四角いので、車両感覚はすぐにつかめるはずだ。

 4万円+税でオプション設定されているパノラマモニターがあれば、取り回しはさらに楽になる。前後左右の死角をカバーする位置に4つのカメラが装備され、車庫入れ、縦列駐車はもちろん、見通しの悪い交差点での一時停止からの発進、幅員の狭い道での運転など、接触事故が起こりやすい場面で大いに役に立つ。モードを切り替えれば、4機のカメラからの映像を合成し車体を真上から見下ろしたように表示する今流行りのトップビューも可能だ。

 運転が苦手だけれど、生活の道具として使う必要があるユーザーにやさしい、使用頻度の高い装備であり、コストパフォーマンスに優れている。個人的には、これで車両感覚をつかみ、苦手意識をなくして、運転を楽しめるユーザーが増えてくれれば…などという期待すらしてしまう。

 運転支援機能はこのほかにも、フロントグリル内に設置されたレーダー&カメラと連動して作動する衝突回避ブレーキや誤発進抑制機能などの総称「スマートアシスト2」が上位グレードに標準装備されている。残念ながらというか、幸いにもというべきか、今回の試乗でこれらの機能を試す機会はなかったが、これは是非全グレードに標準装備してほしいところだ。スタート価格を低く抑える意図があるのだとしても、下位グレードではオプションとしても選べない設定には疑問を感じる。

軽自動車の延長線上にある乗り味

 Aセグメントの車格ということで、ルノー・トゥインゴの乗り味を思い出しながら今回の試乗に臨んだのだが、実際のトールの総合的な乗り味は日本の軽自動車の延長線上にあった。背の高いコンパクトカーだと思うと若干の物足りなさも感じるが、軽自動車にパワーとキャパシティの余裕を持たせた上位車種だと捉えると納得がいく。つまり軽自動車からステップアップするユーザーにとっては、かなり満足度が高いはずだ。

 昔、私が軽の初代スズキ・ワゴンRのオーナーだった頃、車検の代車でワゴンRソリオ(ワゴンRのボディーを拡大して1リッターエンジンを搭載した小型車)に数日乗ったことがあるのだが、率直に「自分のクルマ、この代車ととっかえたい」と思った。同様の使い勝手で、少しの余裕がプラスされることがそれほど快適だったのだ。トールに乗っていてあの時の感覚を思い出した。

 運転の楽しさよりも、取り回しのしやすさ、充実した運転支援機能など、クルマを日常の道具として使う人の生活目線に寄り添った作り込みが強く印象に残る。こういった美点が短時間短距離の試乗でも存分に伝わることもトールの強みだろう。

 さて次回後編では、外観・内装のインプレッション、そして最大の魅力である柔軟な使い勝手を、例によって写真満載で掘り下げていく。乞うご期待。

産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■基本スペック

ダイハツ・トール カスタムGターボ“SA Ⅱ” CVT

※〔 〕内は4WD仕様車

全長/全幅/全高(m) 3725/1.67/1.735

ホイールベース 2.49m

車両重量 1,100〔1,130〕kg

乗車定員 5名

エンジン 水冷直列3気筒 インタークーラーターボ付

総排気量 0.996L

駆動方式 前輪(全輪)駆動

燃料タンク容量 36L

最高出力 72kW(98馬力)/6,000rpm

最大トルク 140N・m(14.3kgf・m)/2,400~4,000rpm

JC08モード燃費 21.8〔22.0〕km/L

車両本体価格 196.56万円