【試乗インプレ】走りも燃費もイイ! スズキの新型スイフト「ハイブリッド RS」(前編)
スズキが主力小型車「スイフト」を6年ぶりにフルモデルチェンジして、今年1月に発売した。注目点の一つはマイルドハイブリッドと呼ばれるHVシステムを同車に初めて採用したこと。今回はスポーティーな専用チューニングを施した「ハイブリッド RS」に試乗した。先代と比較して120キロの軽量化に成功した人気のハッチバックはどんな走りを見せてくれるのか-。前編では走行性能と燃費パフォーマンスを試す。いつもの運転にもう少し刺激が欲しい方は要チェック!(文・写真 大竹信生/SankeiBiz)
累計540万台の世界戦略車
スイフトといえば2000年に初代が誕生し、04年に登場した2代目から世界中で車名を「スイフト」に統一したスズキのグローバル戦略車だ。日本では4代目となるが、世界的に見れば今回が3代目に当たる。スイフト(SWIFT=英語で「速い」の意味)という名の通り、スポーティーな走りが特長のハッチバックで、04年以降、世界で累計540万台を販売したスズキの人気車種である。
パワーユニットは1.2Lと1.0Lターボ、そして1.2Lのマイルドハイブリッドの3タイプを用意している。マイルドハイブリッドとは、減速時に発生するエネルギーをISG(モーター機能付き発電機)で回生して電気を作り出し、加速時にその電力を使ってエンジンをアシストすることで、無駄な燃費を抑制するHVシステム。アクセルを踏まずに前進するクリープ走行時を除けば、基本的にモーターだけで自走できないところが一般的なHVと異なる。
プラットフォームを一新
このクルマのもう一つの注目ポイントが、骨格や主要部品を見直すことで高い剛性と軽量化の両立を実現した新プラットフォーム(車台)、「ハーテクト」を導入したことだ。骨格の結合部に用いる補強部品などパーツ類の削減を図り、これに高剛性のボディを組み合わせることで先代より120キロの減量に成功。スイフトのラインアップで最も重たい「ハイブリッド RS」の4WDモデルでも車重970キロという軽さを実現した。技術力による大幅な軽量化は素晴らしいのだが、正直なところ「車重を1割も削って、本当に剛性は大丈夫なのか」とやや不安になる。これは実際に自分で運転して確かめるしかない。
試乗車はショックアブゾーバーなどに専用チューニングを施したRSという上級グレード。価格は税込みで169万円台だ。足元は185/55Rの16インチタイヤを履いている。マイルドハイブリッド車のトランスミッションはすべて、ATより走りが滑らかで燃費性能に優れるCVT(無段変速機)を採用。駆動方式は前輪駆動(FF)だ。時速220キロまで刻まれた2眼メーターが構えるコクピットは全体的にシンプルなデザインで、運転席側に傾いたセンターコンソールが運転手を中心に設計した“ドライバーズカー”の雰囲気を醸し出す。
マイルドHVでも走りはワイルド?
今回の目的地は神奈川県のほぼ中央に位置する宮ヶ瀬湖。1.2Lの直4エンジンを始動してアクセルを踏んでみた。クルマが動き出すと同時にまず驚いたのが、「ブウォーン」と主張してくるエンジン音だ。右足に力を入れるとエンジンの存在感はどんどんと増していく。マイルドハイブリッドとはいえ、スポーティーな走りに「音」は欠かせないのだ。
発進時の力強さにも驚かされた。最高出力91ps/6000rpm、最大トルク12.0kgm/4400rpmという控えめなスペックを疑うような大きなトルク感。少しでも雑に踏むと、まるでスポーツカーのようにグイッと急発進してしまう。ISGのモーター性能は最高出力3.1ps/1000rpm、最大トルク5.1kgm/100rpmと数値的には小さいが、エンジン性能と比較したときの割合を考えると、モーターによるアシスト量は想像以上に大きいのかもしれない。
しばらく都内の一般道を走ってみたが、低中速域の走りは力強くて加速も滑らか。ボディサイズが小さいので、道路の大きさに関わらず取り回しが楽で運転しやすい。ステアリングホイールはRS専用の重たいチューニングを施しており、ハンドルを切ると手応えたっぷり。路面状況がタイヤとハンドルを介してはっきりと両腕に伝わってくる。筆者が半年以内に運転した小型車の中では、日産・ノートe-POWERやホンダ・フィットよりも、運転のしやすさを追求した「Gベクタリング・コントロール」を搭載するマツダ・デミオに近い操作感覚だ。
秀逸なアイドリングストップ
新生スイフトは燃費性能の向上にも力を入れている。マイルドハイブリッド搭載車は減速エネルギーを利用してISGで発電し、時速13キロ以下になるとアイドリングストップが働いてエンジンが自動停止してガソリンの供給をカット。発進後はISGのモーター機能が介入し、時速100キロまでの速度域で1回につき最大30秒間、必要に応じて加速時にエンジンのアシストを行う。このエコサイクルがはたしてどれだけの燃費性能を発揮するのか、満タン法による試乗後の計測がちょっと楽しみだ。
ちなみにこのアイドリングストップ機構は特筆すべき優れものだった。クルマが超低速走行に入るとエンジンが自動停止するのだが、完全に止まった状態からブレーキを離すと、エンジンがいつ再始動したのか分からないほど静かに、そして滑らかに発進する。ストップ&ゴーを繰り返す街乗りにはうってつけだ。ただ先ほども書いたが、走り出しのアクセル操作は“ジェントルタッチ”を心掛けることが快適な走りにつながる。
高速走行時には弱点も…
舞台を一般道から高速道路に移した。試しにアクセルを思いっきり踏み込むと、エンジンの回転数を示すタコメーターの針が一気に5500回転まで振れる。CVTにありがちな若干のタイムラグを挟んでクルマが猛然と加速する。エンジン音もなかなか“熱い”。ハンドルの手応えも含めて、ノートとは大きくタイプが異なる。筆者はスイフトのような重めのハンドルが好みなのだが、それにはもちろんわけがある。手応えのあるハンドルは中心からどれだけ左右に切っているのか的確に把握できるからだ。その感覚はドライバーの安心感にもつながり、高速度域ではそれが顕著となる。ノートはEV走行が可能な素晴らしいクルマだが、フワフワとした操舵感の緩さだけは(ファミリー向けだと承知したうえで)好きになれなかった。
ではスイフトは高速走行時に快適なのか。この質問にはたくさんのイエスとノーがあった。まずイエスの方から答えると、エンジンパワーは必要十分で追い越し加速にたっぷりと余裕を感じた。高回転時のスポーティーなエンジンサウンドも気持ちがいい。硬く味付けた足回りは、道路の継ぎ目や凹凸の処理を不快にならないレベルでこなしていた。ただ、直進安定性についてはこまめな修正舵を強いられる。また、走行性能とは直接関係ないが、ロードノイズやルーフ前方から聞こえる風切り音も気になった。助手席側のダッシュボード付近から微振動のノイズも漏れてくる。ここに挙げた難点はいずれも高速走行時におけるもので、一般道を走るときは全く気にならなかったのだが、クルマを洗練させるためにもぜひマイナーチェンジでの改善を期待したいところだ。
速いのにエコ…ワインディングで魅力を発揮
厚木インターで降りて、サイクリストやバイクのツーリングで人気の宮ヶ瀬湖に向かう。ギアをパドル操作によるマニュアル走行に切り替えて小刻みにシフトアップすると、あっという間に7速に達する。湖に近いワインディングの上り坂をなんとも軽快に駆け上がっていく。とにかくクルマが軽い。コーナリング時の挙動は非常に安定感があり、軽量化によって車体の剛性が損なわれたという印象は全くない。硬いスポーツシートに包まれた上半身は左右にブレることなく安定している。ドライバーを中心にキビキビと旋回するイメージで、ハンドルを切っていてとても楽しい。天気はまさにドライブ日和で、エメラルドに輝く湖面と山々に囲まれた景色も抜群に綺麗だ。湖周辺では元F1ドライバーの片山右京氏が率いる自転車チーム、「TEAM UKYO」の選手たちが練習をしていた。
今回は時間に余裕がなかったため、写真撮影を終えると、湖を半周してからすぐに東京へとんぼ返りした。走行距離は約150キロで、消費したガソリンは8.02リットル。カタログ燃費27.4キロ/Lに対し、単純計算による実燃費は約19キロ/Lだった。満タンで車重が重く、特にエコを意識せずに走ったことを考えると、とても優秀な成績といえるのではないだろうか。ちなみにガソリンターボ車「RSt」のカタログ燃費は20.0キロ/L、ノンターボ車の「RS」は同22.6キロ/Lだ。
走行性能だけで見ると、新型スイフトの最大の魅力はやはり軽量化に伴う軽快な走行感だろう。ライトウエイトとマイルドハイブリッドの相乗効果で高い燃費性能も手に入れている。ただの移動手段にとどまらず、久しぶりに小型車で運転を楽しむことができた。どの速度域でもパワフルで速いが、特に「操る楽しさ」を味わえる屈曲路で持ち味を最大に発揮するタイプだと思う。
ロードインプレッションはここまで。次週はデザイン面や安全性能のチェック、総評をお伝えする。お楽しみに。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■主なスペック スズキ・スイフト「ハイブリッド RS」(試乗車)
全長×全幅×全高:3840×1695×1500ミリ
ホイールベース:2450ミリ
車両重量:910キロ
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒
総排気量:1.242リットル
最高出力:67kW(91ps)/6000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4400rpm
トランスミッション:CVT
駆動方式:前輪駆動
タイヤサイズ:185/55R16
定員:5名
最小回転半径:4.8メートル
燃料タンク容量:37リットル
燃料消費率(JC08モード):27.4キロ/リットル
車両本体価格:169万1280円(税込み)
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